この強烈な匂いは、どこから来るものなのか。ベテランの全国紙記者は、東日本大震災や阪神・淡路大震災でも悪臭を経験したと語る。
「平常時の町というのは、雨が降っても屋根から水が落ちて下水に流れたり、地面に染み込んだりして、ちゃんと雨水をさばけています。しかし、大規模火災で焼け焦げたところに雨が降ると、水はけが悪いせいで木材に染み込み、水が腐ったような匂いを漂わせます。そこに不燃物が焦げた臭いも混ざり合い、きつい悪臭となります。
火災臭は、少量を吸い込んだだけでも咳やめまい、頭痛、吐き気をもたらします。しかも燃えたものによっては、ダイオキシンやホルムアルデヒドが発生し、それらを吸い込めばアレルギーや喘息、呼吸困難といった深刻な健康被害を引き起こす恐れもあり、たかが悪臭と侮ることはできません。生き埋めになっている人は、身動きが取れない状態で、強烈な悪臭にも苦しんでいることでしょう」(全国紙記者)
その歴史は平安時代にまで遡り、「日本三大朝市」のひとつにも数えられた輪島朝市。約360メートルの朝市通りには、鮮魚や民芸品を扱う店など数百軒がほぼ毎朝集まり、大勢の観光客で賑わっていた。しかし、いまや通りに並ぶ建物の多くが倒壊し、かつての活気は見る影もない。輪島塗の老舗店「塩徳屋漆器店」の店主である塩山浩之さんが、淡々と店の前を掃除していた。
「元日、初詣から帰ってきたところで最初の弱めの地震にあいました。品物は大丈夫かと店を確認しに行ったら、大きい本震がきました。非常ベルが鳴って停電になり、とにかく立っていられなかった。揺れがおさまって外に出たら、道が蛇行していて、両隣と奥の家屋、正面の家屋が倒壊していました。これは異常事態だと高台にある自衛隊の駐屯地に逃げました。
朝市通りで火災が起きているというニュースを聞いて、にわかには信じられず、来てみたらこの惨状です。現実離れしていて、いまだに心の整理がつきません。この先どうしようかと途方に暮れる気持ちと、たった1日で生活が崩壊してしまう、世の中をこんなに変えてしまう自然の力を感じています」(塩山さん)
現地の誰もが穏やかに年始を過ごすつもりだっただろう。人々の日常を一変させた大地震。1人でも多くの命が助かって欲しい。