小林氏が丹精を込めてローションをまいている
街を動物のように見せるための要素とは……
VFXに予算と人員を投じるため撮影の規模は最小限。監督を針谷と小林の二人で担当するため助監督も入れなかった。加えてロケのほとんども木更津駅周辺で撮影した。
小林:予算やスケジュールを加味するとそんなに遠くへも行けないし、「“街”は人の記憶に擬態する」という設定だから、味があって“人の記憶の中”感がある場所がいい。場としてあまり個性が強すぎず、なんの変哲もなくて、でもなんか見たことある感じ。それで探したら木更津がドンピシャでしたね。駅の西側と東側で雰囲気が違うのもよかった。
第1話では保護官を務める主人公に“街”が懐いておらず、主人公が住まう住居のドアにチェーンをたくさんつけて威嚇したり、室内に室外機を生やしたりといった地味な嫌がらせをしてくる。“街”にはなんだか言うことをきかない猫のような可愛らしさがある。
小林:全体のリアリティを作っていく上で先程言ったように、遠景には突拍子もなく大きい被写体を配置するのに対して、手で触れられる距離感では、実物を使って変な現象を演出しようと考えていました。チェーンを見えないところに貼っちゃえば、ドアチェーンが大量についてるように見えるなとか。なるべく手触りのある、地味な奇妙さがいいなと。
針谷:室外機にローションをまいてみたり(笑)。
小林:他にも「路上に置かれた三角コーンを持ち上げると、下に根っこがついている」とかネタ自体はあったんですけど、実現するカロリーが高い順に削っていきました。
針谷:自然ドキュメンタリーで取り上げる動物みたいに、怖いんだけど同時に親しみも覚えられるようしたくて。“街”は、なるべく可愛く見せたかった。
小林:街を動物のように見せるためにはどうすればいいのかと考えた時に「鳴く・飲み食いする・息をしている」様子を見せようと。もちろん画作りもこだわりましたけど、音も本当に細かいところまでやっていただきました。実は、劇中ずっとさりげなく“街”が鳴 いてるんですよ。奥の方で唸っていたり。キシキシと不穏な音を鳴らしたり。「『カリブの海賊』みたいな音をつけてください」みたいに発注していました(笑)。3話の“街”同士の交尾のシーンでさりげなくベッドがきしむ音がついていたのは笑いました。結局は外すことになりましたが。それくらいのノリでみんなアイデアを出し合ってやっていましたね。