能登半島地震で地割れした道路(石川県・穴水町)(時事通信フォト)
「今回の能登半島地震によって “スタンバイ状態”にあった富士山が刺激され、噴火リスクがさらに上がった可能性があります。富士山の直下にはプレートの境界部があり、能登半島と富士山が距離的にさほど離れていないことも懸念材料です」(島村さん・以下同)
噴火が起きれば、火山ガスや火山灰が混ざった600℃以上の「火砕流」が時速100kmの速さで山肌を流れ落ちる。さらに、1200℃に達する真っ赤な「溶岩流」が、ゆっくりとしたスピードで周囲を焼き尽くしながら山麓の街をのみ込んでいくのだ。「富士山ハザードマップ」(富士山火山防災対策協議会作成)は、溶岩流は噴火から57日間かけて神奈川県相模原市や小田原市に到達すると予測している。
危険が迫るのは、富士山麓の街だけではない。噴火から2時間以内に、新たな脅威が広範囲を襲う。富士山が噴火すれば大量の「火山灰」が上空まで吹き上がり、偏西風に乗って2時間ほどで東京まで到達するという。
前出の「富士山ハザードマップ」では、山梨県や静岡県の富士山近隣で50cm以上の降灰が想定され、東京23区や埼玉県さいたま市、千葉県館山市、茨城県取手市でも2〜9cmの火山灰が積もるとしている。だがこの試算は20年前の2004年に発表されたもの。「富士山ハザードマップ」は2021年に改訂されたが、「降灰の想定範囲」の項目は改訂されなかった。
「世界的に見ても、長い休止期間の後の噴火は規模が非常に大きくなります。近い将来起こるであろう富士山の噴火は、300年分のエネルギーをため込んでいる。それに加え近年の活発なプレートの動きにより、大量のマグマを蓄えている可能性もあります。噴火規模や降灰の範囲は、ハザードマップの想定を上回るかもしれません」
火山灰がもたらす被害は深刻だ。
「サラサラしている火山灰は、マグマが粉砕されて微粒子になった薄いガラスの破片です。火山灰がわずか0.1mm降っただけでも、ぜんそく患者の43%が症状の悪化を訴えたという報告もあります。健康な人でも火山灰を吸い込んでしまえば、喉や鼻を傷つけ健康被害をもたらします。またコンタクトレンズと目の間に入ってしまうと、角膜剥離や失明を引き起こす危険がある」
屋根に十数cmの火山灰が積もると、家屋によっては押しつぶされてしまう可能性もある。現在はありとあらゆるものがコンピューターで制御されているが、電気やガス、上下水道の施設などの器機の隙間に火山灰が入り込めば、システムが狂い機能が停止する。大規模停電が起きれば、暖房や冷房が使えずに体調を崩す人が続出する。最悪の場合、「災害関連死」につながることも考えられるのだ。
「交通の面でもさまざまな支障が出るでしょう。火山灰が0.3mm道路に積もればスリップする車が続出し、線路に0.1mm積もれば電車は走行不能になります。帰宅困難者があふれ、みな火山灰を浴びながら自宅を目指すことになる」
火山の噴火は長期間続くケースがあり、火山灰が何か月も降り続けることも考えられる。仮に噴火が収まり降灰がなくなったとしても、地面に積もった火山灰が舞い上がり数か月は人体への被害が出続ける。日本列島はいま、大きなリスクを抱えている。
※女性セブン2024年2月1日号
自衛隊による捜索活動が続く(石川県輪島市)(時事通信フォト)
想定よりも広い範囲を火山灰が襲う!