得意なのはサッカーだけじゃない? 豪快なピッチングフォームを披露した松木安太郎氏
「5分ある、5分ある」…繰り返し発言が増えてくる
……とはいえ、こんな指摘はあまりに野暮だろう。本当は時間がないことくらい、Jリーグ初代チャンピオン監督の松木氏は十分過ぎるほどわかっている。その証拠に終盤に差し掛かると、言い方が微妙に変わってくる。アディショナルタイム直前からの7回の発言をもう一度、おさらいしてみよう。
後半44分27秒 いやいや、もう…とにかくまだ時間はある。(アディショナルタイムは)5、6分はあると思うから。
後半45分5秒 (アディショナルタイム表示)8分ある。8分あるから大丈夫だ、大丈夫。
後半45分10秒 (「松木さんありますね」と吉野真治アナに振られて)ある、ある。
後半47分32秒 まだ6分あるからね。
後半47分 (日本1点目)まだ5分ある、5分ある。5分ある、5分。
後半49分6秒 時間はある。時間はある。
後半51分38秒 まだ3分はあるから、3分は。
ここには、はっきりした傾向がある。まず、自らの言葉を遮るように「とにかく」と叫ぶなど、松木氏の焦りが読み取れる。次に、「時間」というアバウトな表現をやめ、「8分」「6分」「5分」「3分」と具体的な分数を刻み始め、暗に時間がないと伝えている。同時に、「5分ある、5分ある」「時間はある。時間はある」「まだ3分はあるから、3分は」など2回以上同じ言葉を繰り返して訴えた。
この連呼を聞いて、私は焼酎『白岳』のテレビCMを思い出した。女性が「部屋にあげてもいいけど、変なことしないでね」と言うと、男性は「しない、しない」と2回繰り返す。服屋で試着を終えた人が「どうですか?」と聞くと、店員が「お似合いです、お似合いです」と連発する。その直後、『人間、本当のことは一回しか言わない』というテロップが画面に表示される。
松木氏のアディショナルタイムはまさに『白岳』のCMと同じではないか。「5分ある、5分ある」「時間はある。時間はある」「まだ3分はあるから、3分は」と言った後、テロップで『人間、本当のことは一回しか言わない』を出したいほど、このフレーズは芯を食っている。実際、松木氏は「時間はある。時間はある」と言いながら、直後に「まだ3分はあるから、3分は」とほぼ時間がないことを白状してしまっている。
テレビ朝日の次回の放送は準々決勝になる。日本代表は松木氏に「まだ時間はある」と言わせても、「時間はある。時間はある」と繰り返させても構わない。しかし、最終的に逆転して勝ち進んでほしい。そして、松木氏の勝利の雄叫びが日本中に轟く瞬間を願っている。
■文/岡野誠:ライター、松木安太郎研究家。NEWSポストセブン掲載の〈検証 松木安太郎氏「いいボールだ!」は本当にいいボールか?〉(2019年2月)が第26回『編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞』デジタル賞を受賞。著書『田原俊彦論 芸能界アイドル戦記1979-2018』(青弓社)では本人へのインタビュー、野村宏伸や木野正人などへの取材などを通じて、人気絶頂から事務所独立、苦境、現在までを熱のこもった筆致で描き出した。