水谷豊と寺脇康文の『相棒』
その影響を最も受けたのが、「50~70代の視聴者が多い」と言われる刑事ドラマ。さらに刑事ドラマが好きな視聴者は『相棒』『科捜研の女』『特捜9』『刑事7人』(テレビ朝日系)などシリーズ作を選ぶ保守的な傾向もあって、新作の企画は徐々に減っています。
冒頭に挙げた今冬ドラマの中で、その流れを象徴しているのが、『マルス-ゼロの革命-』。これまで刑事ドラマを量産してきたテレビ朝日が21歳の道枝駿佑さんを主演に据えて高校生たちの活躍を描いたこの作品に“脱・刑事ドラマ”の意識を感じさせられます。
さらに同作の「高校生の動画集団“マルス”が大人たちの闇を暴いていく」という筋書きを見れば、痛快さを押し出した作品であることがわかるでしょう。2010年代後半あたりから「暗い」「つらい」「重苦しい」ムードのドラマを避けたがる視聴者が増え、コロナ禍を経てその傾向が強くなったことで、ますます「明るい」「癒し」「痛快」をベースにした作品が増えました。
これらのさまざまな理由から作り手たちが刑事ドラマの新作を選択しづらくなっているのです。
「刑事」同様に「医療」も減っている
では刑事ドラマの次に作品数が多かった医療ドラマはどうなのでしょうか。
今冬で「純粋な医療ドラマ」と言い切れるのは『となりのナースエイド』のみ。『グレイトギフト』は病院が舞台ではあるものの、殺人球菌をめぐるミステリー、『院内警察』は病院内の事件を解決する物語であり、医療シーンは限定的です。『となりのナースエイド』が医師ではなく、看護師でもなく、看護助手を主人公に据えた物語であることも含め、「正攻法ではなく切り口を変えることで見てもらいたい」という狙いがうかがえます。
刑事ドラマと同様に医療ドラマも、中高年層に人気のジャンルである上に、命をめぐるシーンが多く「暗い」「つらい」「重苦しい」と感じられやすいなど、現在の視聴者に合いづらいと言われるようになりました。それでも、「命を救うシーンや家族の物語を描きやすく希望を見せられる」「医師や看護師などに若手俳優を起用しやすい」などの理由から刑事ドラマほど減っていませんが、今後の行方は未知数でしょう。
刑事ドラマ、医療ドラマが多かった冬ですら、これほど減っている以上、いつ「両方合わせて0作」というクールが訪れても不思議ではないのです。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月30本前後のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組に出演し、番組への情報提供も行っている。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』『独身40男の歩き方』など。
『となりのナースエイド』に出演する川栄李奈