人工股関節の進歩とともに術後のQOL(生活の質)も大きく飛躍した。北水会記念病院院長の平澤直之医師はこう話す。
「われわれが研修医だった数十年前は、人工股関節を入れた患者さんには『体に負担をかけるような動きをさせるな』『肉体労働はやめさせろ』などと教わっていました。しかし耐用年数が延びて術後の成績もよくなってきたことで、医師側の考え方も変わってきたんです。
いまは、患者さんが痛みのためにあきらめている仕事やスポーツなどの趣味ができるように手助けすることを目標として、手術を行うこともまれではありません。患者さんの考え方もさまざまであり、痛みで自由に動けないのに、やりたいことをがまんしてまで保存療法を続けることが、必ずしも幸せにつながるとは限りません。自分がどんな生活を送りたいかを中心に考えて、手術するかどうかを検討していただければと思います」
では、いざ手術を受けると決めたら、どんな医師や病院に委ねるべきか。膝も股関節も、特に人工関節は正確な位置・角度に入れることができなければ、変形や痛みが残ってしまうなどの不具合が生じうる。
それを防ぐために、術前の画像診断などの情報をもとに、正確な位置へガイドするナビゲーションシステムやロボット手術などが開発され、普及が進んでいる。こうした最新技術の導入に積極的な医療機関で手術を受けるべきだろうか。東邦大学医療センター大森病院 整形外科・人工関節治療センター長の中村卓司医師はこう断言する。
「人工関節手術におけるナビゲーションやロボットはあくまで補助的なもので、それらを導入したからといって、必ずしも手術成績が向上するわけではありません。同じ変形性膝関節症であっても、膝関節が伸びなくて困っている人もいれば、曲がらなくて困っている人もいます。人の顔と同じように変形の程度はさまざまです。ですから、1例1例をよく吟味して、症例個々の問題を把握することが、手術成績を向上させるためには大切です」
そのためには画像だけでなく、術者が直接、膝を触って確かめることが不可欠だという。
「患者さんに関するすべての情報を総合し、最後に術中の感触も加味して手術を進めていきます。私は、膝を直に見て触った情報がいちばん大切だと、先輩医師から教わりました。信頼できる医師とは、画像情報だけで判断せず、術前に丁寧に膝や股関節を診察し、わかりやすく説明してくれる医師だと私は思っています」(中村医師)