顔写真を記憶し、繁華街やターミナル駅など人混みの中で見つけ出す捜査手法「見当たり捜査」を街頭に立って行っている警察官。AIが発達した今でも逮捕に繋がりやすい有効な捜査方法として世界中で用いられている(イメージ、時事通信フォト)
聞き込み再開を知りヤクザは潜伏先を変え、古参幹部の知人のアパートに逃げこんだ。「そこから半年以上、やつは部屋から1歩も外に出なかった。買い物はすべて若い者がやり、電話もかけてこない。自分が若い者に電話して『遊びに行こうか』と言ったら、『来ないで下さい!』と言われたよ」。普段と違う人の出入りは目につきやすい。それが暴力団となれば尚更だ。「結局そいつは時効になった後も1か月以上部屋から出てこなかった。確実に時効になるのを待っていた」(古参幹部)。
逮捕のきっかけになりやすい携帯電話
時効まであと2週間というところで逮捕されたヤクザもいるという。罪状は傷害罪、時効は10年、刑罰となる法定刑は15年以下の懲役または50万円以下の罰金。我慢すること9年と11か月半、潜伏先の部屋を出たところでそのヤクザは逮捕された。きっかけは情報提供だ。「ちょうど懸賞金が100万円上乗せされたタイミングでね。その時一緒にいた女が売ったんだと噂になった」。
情報提供のほかに逮捕のきっかけとなるのが、携帯電話だと古参幹部は話す。「逃亡中、自分の携帯は絶対に使わない。仲間に頼んで新しい携帯を作ってもらうが、警察は連絡を取り合う者の携帯番号は全部把握している」。暴力団組員となれば、警察は普段からその者の交友関係を把握しているからだ。「そいつらの所に逃走後、新しい番号から着信があれば、これはと目星をつける。誰でも頻繁に連絡するのは100人もいないはずだ。毎日かけていた彼女に新しい番号で電話がかかれば、これが怪しいと探る。数か月前までさかのぼり、逃亡後からかけてくる新しい番号があればこれが逃亡者だとみる。例え仲間の携帯を借りても、急にそこへの着信が増えれば怪しまれる。警察が着信履歴から発信地を調べるのは簡単だ。今ならピンポイントで居所がバレる」(古参幹部)。
「昔の方が逃げやすかった」という古参幹部が、逃亡先に選ぶとすれば「都会から少しはずれた携帯電波の入らない所」という。ヤクザにとって、都会の雑踏に逃げ込めば見つからないという感覚はもう古いようだ。