日本では水道、電気を止められる日々
この日は前述の通り、オープンマイクという練習ライブだ。だから原則、ギャラは発生しないが、普段はチケット制のスタンダップコメディライブで稼いでいる。それを週に2回ほどこなすほか、企業がスポンサーとなる国内営業や日本政府関係のイベントでネタを披露し、フィリピンで芸人として生きている。
「フィリピンに来て100%良かったです!」
そう言い切るほりっこしは、日本での芸人時代を振り返りながら、こう続けた。
「もし日本であのまま芸人を続けていたら、多分辞めていたと思います。アルバイトばっかりで、家の水道や電気が止められることはしょっちゅう。日本ではトータルで9年、芸人をやりましたが、1カ月の稼ぎが1万円を超えたことは数回しかありません。M-1も2回戦止まり。今は自分が夢に描いていた芸人という職業でご飯を食べれているんです。ありがたいです」
ほりっこしが吉本のお笑い養成学校、東京NSCに入ったのは2006年。入校生は約500人いたが、卒業時には半分程度に絞られた。同期にはニューヨークを拠点に活動する渡辺直美やジャングルポケット、ジェラードンなどの著名な芸人たちが名を連ねるが、現在も現役を続けているのは彼らを含め一握りしかいない。その他大勢がお笑いの舞台を去っていく中、ほりっこしも芸だけで生き残っているのだ。
果たして異国の地で、どのように芸を磨いてきたのか。
(後編に続く)
◆取材・文 水谷竹秀(みずたに・たけひで)/ノンフィクションライター。1975年、三重県生まれ。上智大学外国語学部卒。新聞記者、カメラマンを経てフリーに。2004~2017年にフィリピンを中心にアジアで活動し、現在は日本を拠点にしている。11年に『日本を捨てた男たち フィリピンに生きる「困窮邦人」』で開高健ノンフィクション賞を受賞。近著に『ルポ 国際ロマンス詐欺』(小学館新書)。