ライフ

ノンフィクション作家・最相葉月さんインタビュー「自分は相手にとって迷惑な人間だということを自覚しながら現場に行く30年でした」

最相葉月さん/『母の最終講義』

最相葉月さんに最新エッセイ『母の最終講義』についてインタビュー

【著者インタビュー】最相葉月さん/『母の最終講義』/ミシマ社/1980円

【本の内容】
 ノンフィクションライターの仕事を始めて30年。「あとがき」にこう記す。《振り返れば、三十年という時間は介護とともにあり、介護なしで今の自分はなかったと思えるほどの物量でのしかかっていた。ところが、喉元過ぎればなんとやらの言葉通り、終わってみればやり切ったという達成感がある。(中略)しかし、そうは問屋が卸さない》──2011年から2023年まで様々な媒体に綴ったエッセイ47編を収録。数々のノンフィクション作品を生み出す傍らにあった親の介護や夫、愛猫との時間、そしてコロナの日々を綴る。

親の犠牲になってきたという恨みが消えた

 小さいけれども持ち重りのするエッセイ集だ。「母の最終講義」という本のタイトルもすばらしい。

 最相さんが20代のとき、お母さんが脳血管性の認知症になり、実家のある神戸と自分が暮らす東京を行き来して遠距離介護してきた。育ててもらった時間より介護した時間のほうが長い。

 13年前にお父さんががんで亡くなり、お母さんの状態が悪くなってからは、東京の介護施設に移ってもらった。1日おきに通い、施設から取材に行くこともあったそうだが、そのころには「自分が親の犠牲になってきたという恨みがすーっと消えた」と書いている。

「母を通して勉強させてもらっていると180度考えが変わりました。昨年の初めに出した『証し』というキリスト教の信者に聞き取りをした本の取材でお会いする方たちが、『私が○○した』ではなく『神に導かれてここまで来ることができた』というふうに話されるんです。彼らの語りを聞くために歩いている自分も、何かの力に支えられ歩かされているという感覚になっていって、母の介護も、これは母からの教育なんだと思うようになりましたね」

 若いときは、友人が旅行や留学するのを見て、自分のためだけに時間が使えない状況にいらだつこともあったそうだ。

「悲しかったのは、定年退職後のご夫婦が仲良く散歩してたり、海外旅行をしていたりする姿を見るときで、どうしてうちの親はこういうふうになれなかったんだろうって、かわいそうになりました」

 デビュー作の『絶対音感』以来、『星新一 一〇〇一話をつくった人』『青いバラ』『セラピスト』など、コンスタントに力のこもった作品を発表してきたが、すべて遠距離介護をしながらの執筆だった。

「雑誌連載ができなかったですね。ノンフィクションというとテーマを決めたら編集者と二人三脚で雑誌に連載、原稿料をいただいて本にする時代でしたが、私にはそういう仕事のしかたができなかったです。締切は自分で決めて、完成した原稿を編集者にお渡しする。出版社のスケジュールに合わせて動く仕事はできませんでした」

 取材依頼や交通機関の手配など、雑誌連載なら編集者がしてくれるようなことも、ぜんぶ自分でやってきた。取材に行くのも1人で、だからこそ遭遇したハプニングがエッセイにつづられる。たとえばニューヨークやブエノスアイレスの取材先でバスの始発を待ってソファで夜を明かしたり、熊が出没する北海道の森を「森のくまさん」を歌いながら歩いたりしたこともあった。

「結果的にですけど、1人だから経験できたことは確かにいろいろありますね」

関連記事

トピックス

驚異の粘り腰を見せている石破茂・首相(時事通信フォト)
石破茂・首相、支持率回復を奇貨に土壇場で驚異の粘り腰 「森山裕幹事長を代理に降格、後任に小泉進次郎氏抜擢」の秘策で反石破派を押さえ込みに
週刊ポスト
別居が報じられた長渕剛と志穂美悦子
《長渕剛が妻・志穂美悦子と別居報道》清水美砂、国生さゆり、冨永愛…親密報道された女性3人の“共通点”「長渕と離れた後、それぞれの分野で成功を収めている」
NEWSポストセブン
結婚を発表した趣里と母親の伊藤蘭
《母が趣里のお腹に優しい眼差しを向けて》元キャンディーズ・伊藤蘭の“変わらぬ母の愛” 母のコンサートでは「不仲とか書かれてますけど、ウソです!(笑)」と宣言
NEWSポストセブン
2020年、阪神の新人入団発表会
阪神の快進撃支える「2020年の神ドラフト」のメンバーたち コロナ禍で情報が少ないなかでの指名戦略が奏功 矢野燿大監督のもとで獲得した選手が主力に固まる
NEWSポストセブン
ブログ上の内容がたびたび炎上する黒沢が真意を語った
「月に50万円は簡単」発言で大炎上の黒沢年雄(81)、批判意見に大反論「時代のせいにしてる人は、何をやってもダメ!」「若いうちはパワーがあるんだから」当時の「ヤバすぎる働き方」
NEWSポストセブン
寄り添って歩く小室さん夫妻(2025年5月)
《お出かけスリーショット》小室眞子さんが赤ちゃんを抱えて“ママの顔”「五感を刺激するモンテッソーリ式ベビーグッズ」に育児の覚悟、夫婦で「成年式」を辞退
NEWSポストセブン
負担の多い二刀流を支える真美子さん
《水着の真美子さんと自宅プールで》大谷翔平を支える「家族の徹底サポート」、妻が愛娘のベビーカーを押して観戦…インタビューで語っていた「幸せを感じる瞬間」
NEWSポストセブン
“トリプルボギー不倫”が報じられた栗永遼キャディーの妻・浅井咲希(時事通信フォト)
《トリプルボギー不倫》女子プロ2人が被害妻から“敵前逃亡”、唯一出場した川崎春花が「逃げられなかったワケ」
週刊ポスト
イギリス出身のインフルエンサーであるボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
“1000人以上の男性と寝た”金髪美女インフルエンサー(26)が若い女性たちの憧れの的に…「私も同じことがしたい」チャレンジ企画の模倣に女性起業家が警鐘
NEWSポストセブン
24時間テレビで共演する浜辺美波と永瀬廉(公式サイトより)
《お泊り報道で話題》24時間テレビで共演永瀬廉との“距離感”に注目集まる…浜辺美波が放送前日に投稿していた“配慮の一文”
NEWSポストセブン
芸歴43年で“サスペンスドラマの帝王”の異名を持つ船越英一郎
《ベビーカーを押す妻の姿を半歩後ろから見つめて…》第一子誕生の船越英一郎(65)、心をほぐした再婚相手(42)の“自由人なスタンス”「他人に対して要求することがない」
NEWSポストセブン
会話をしながら歩く小室さん夫妻(2025年5月)
《眞子さんが見せた“ママの顔”》お出かけスリーショットで夫・小室圭さんが着用したTシャツに込められた「我が子への想い」
NEWSポストセブン