ギャンブル好きだったことでも有名(撮影/関谷知幸)
「あなたも一平さんと同じじゃないの」
もうひとつ心がけたのは、妻との会話を増やすことだ。
「前から会話はあったけど、より意識して話をするようにしています。彼女が同じ話を繰り返しても、『それはもう聞いたよ』と返すのではなく、初めて聞いたようなふりをして“うんうん”と根気よく聞いて、こちらからも話を引き出すようにする。そこはアナウンサーとしての技術が役立っています」
そんな彼女が最近、めずらしく強い関心を寄せたのが、ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平の専属通訳だった水原一平被告が、ギャンブルの資金を得るために大谷の口座から約26億円を盗んだというニュースだった。
「報道を見た妻が『あなたも一平さんと同じじゃないの』と言ったんです(笑い)」
頭をかきながら語る徳光。前述の通り、彼のギャンブル好きは有名で、競艇で当てた900万円を“再投資”して3日で3万円に減らしたり、「倍にして返す」と言って当時子供だった次男のお年玉を借りるなど、数々の“賭博伝説”を誇る。
「確かにぼくも一平氏のギャンブル依存症に近いところがある。とにかく毎日ギャンブルがしたくて、お金がなくなったら、目の前にある妻や息子のお金に“肉親だったら許されるんじゃないか”と手をつけてしまうし、ギャンブルのために定期預金や生命保険を解約したこともあります(苦笑)。そんな夫を間近で見てきたから、妻は認知症になっても『あなたも一平さんも同じ』と見抜いたのでしょう」
認知症が進んでも、彼女にとって夫のギャンブル癖は忘れたくても忘れられない“厄介事”なのだろう。そんな妻のお灸もあり、現在はギャンブルを控えめにしていると苦笑いだった。
地域の人が「奥様は大丈夫ですか?」
買い物にでかけたまま帰ってこずに警察に相談した失踪騒動などもあり、徳光は妻の生活を支援するために訪問介護などの利用を検討しているというが、本人はなかなか首を縦に振らないという。
「この病気が難しいのは、物忘れはあるけど行動や考え方は正常で、個人の個性が消えないところ。徐々に体が動かなくなっていくのでヘルパーさんに来てもらいたいけど、妻は家に他人が入るのがダメと拒む。この先、どうやって彼女の同意を得るか悩ましいところです」
妻の主な症状は物忘れで日常生活は不自由なく送れるものの、すべてが昔のようにというわけにはいかない。
一方、徳光本人も最近は体調不良に悩まされ、今年の正月には強いめまいが生じ、緊急搬送されるなど、若い頃とはワケが違う。厳しい現実を前に、夫婦にはいままでになかった緊張感が生じている。
「これまでは競馬で800万円勝っても妻には“400万円勝った”といったセコい嘘がバレないかハラハラしていましたが、いまは別種の緊張感があります。認知症の進行は止められないから、妻が歩けなくなったり、料理ができなくなったりする日が近い未来、来ないとは限りません。
ぼくが家に帰って『ただいま』と言ったとき、当たり前のように思っていた妻の『おかえりなさい』が返ってこない日がもうすぐ来るかもしれない。真面目な話、そうした緊張感を抱いて毎日を過ごしています」