ライバルとされる伊藤匠七段

ライバルの本命とされる伊藤匠七段(写真/共同通信社)

ライバルの本命は伊藤匠七段

 棋士のおおよその格付けは、順位戦のクラスを見るのがわかりやすい。名人に次ぐA級10人はもちろん、一騎当千の強者ばかりだ。新A級の千田翔太八段(30才)、増田康宏八段はまだタイトル挑戦の経験はないが、藤井を相手に重要な一番で勝利をあげた実力の持ち主である。

「私が師匠だから言うわけじゃないけど、勇気君も藤井さんからタイトルを取れる可能性はあるでしょう」

 そう語るのは佐々木勇気八段の才能を誰よりも知る石田和雄九段だ。順位戦はクラスをひとつ上げるのも難しい。中にはA級でも遜色ないほどの強さなのに、下位のクラスにとどまっている若手棋士も存在する。昨年度、棋聖・王位で藤井に挑戦した佐々木大地七段(29才)はその典型例だ。勇気八段と大地七段、2人の佐々木は藤井キラーの資格充分だ。

 現状、藤井のライバル候補の本命は、伊藤匠七段と言ってよいかもしれない。

「君が将来、名人と竜王になったら、その賞金半分持ってこい」

 師匠の宮田利男八段は、伊藤に弟子入りを許す際、そう言った。もちろん冗談だが、見込みのない少年には、冗談でもそんなことは言わない。師匠や周囲の期待通り、伊藤は大棋士への道を歩みつつある。

 伊藤は昨年度、竜王と棋王、2つのタイトル戦番勝負に登場。もし相手が藤井でなかったら、いま頃は若きタイトルホルダーとなっていたかもしれない。藤井があまりに強かったため、伊藤は1勝を挙げることもできないまま終わった。

 結果だけを見れば、一方的にも見えるが、その内容を見て、伊藤の強さを再認識する声も多く聞かれた。直近でもっとも藤井の牙城を崩す可能性が高いのが叡王戦で藤井に挑戦中の伊藤だ。6月20日に行われる第5局で伊藤が勝って初タイトルを獲得すれば、将棋史は新しいステージの幕開けとなりそうだ。

 将棋界においては年齢は重要な指標で、強くなる棋士はだいたい、10代のうちから才能を現している。現在、現役中の最年少棋士である藤本渚五段はまだ18才で、ポスト藤井の有力候補の一人だ。藤井、伊藤、藤本の3人の名に「藤」の字がつくのは偶然かもしれない。それでも今後、もしこの3人が天下を争い続ける時代がくれば、その偶然も意識されるだろう。

 タイトル戦はネットで観戦が可能だ。藤井たちの対局姿に憧れ、これから将棋を始める少年・少女たちの中から、未来の八冠も生まれるかもしれない。

第2回へ続く

【プロフィール】
松本博文/将棋ジャーナリスト。東京大学将棋部在籍中より将棋書籍の編集・執筆に携わる。名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力し、「青葉」名で中継記者を務める。『ルポ 電王戦』で第27回将棋ペンクラブ大賞文芸部門賞を受賞。『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』『棋承転結 24の物語 棋士たちのいま』など著書多数。

※女性セブン2024年7月4日号

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