ライフ

孫に語る選挙 大人たちの”熱い戦い”についてどう説明するか

東京都知事選挙が告示され、選挙ポスターが張られた掲示板。過去最多の56人が立候補した(時事通信フォト)

東京都知事選挙が告示され、選挙ポスターが張られた掲示板。過去最多の56人が立候補した(時事通信フォト)

 選挙は民主主義の根幹、しかし語り合うのが難しいの政治である。コラムニストの石原壮一郎氏が考察した。

 * * *
 この物語は、あくまでフィクションです。実在の地域や選挙、候補者にはカケラも関係ありません。イメージが重なる部分があったとしても、それは気のせいです。

 20××年の夏、日本のどこか大きな町で「町のいちばん偉い人」を決める選挙が行なわれていました。選挙管理委員会の予想をはるかに超える多くの立候補者があり、ポスターの掲示板の枠が足りなくなるという前代未聞の事態になりました。

 いざ選挙期間がスタートしてみると、その貴重な掲示板の枠の半分ぐらいに、同じポスターが貼られています。場所によっては、イヌやネコのイラストが貼られているところもあるようです。テレビの政見放送でも、出てきた6人のうち5人が同じことを言っているなんてことがありました。これまでもこの町の選挙では、ユニークな人が立候補して話題になったりもしていましたが、それとは次元が違う「異様さ」です。

 この町に長く住んでいる源三さん(仮名、73歳)は、掲示板の前に立って腕組みをしていました。「うーむ、孫に聞かれたら、どう答えたのものか……」と悩みながら。

 源三さんには、近所に住む孫娘がいます。名前はアヤちゃん(仮名、6歳)。好奇心旺盛で、いつも大人を質問攻めにします。それはいいのですが、近ごろは「ねえ、ジイジ、月はなぜ落っこちて来ないの?」といった鋭くて難しい質問もしてくるようになりました。テレビで話題になっている「選挙」にも、興味を持っているに違いありません。

「同じポスターがいっぱい貼ってあるのはなんでなの?」

 そんなことを思った数日後、源三さんの家にアヤちゃんが遊びに来ました。「滑り台がやりたい」と言うので、ふたりで手をつないで近所の公園に行きました。公園の横には選挙ポスターの掲示板があります。

「ねえ、ジイジ、同じポスターがいっぱい貼ってあるのはなんでなの?」

 掲示板を見ていたアヤちゃんが、不思議そうに尋ねました。子どもの目にも、さぞや奇異な光景に映ったでしょう。源三さんは「やっぱり来たか」と思いながら、考えておいた答を話しました。

「アヤッペ、いいところに気が付いたのう。『こういうことをしてはいけません』っていう決まりはないと言いながら、得意気にやった人がいるんじゃ。してはいけないのは当たり前すぎて、誰も決まりなんか作る必要はないと思っていたんじゃがな」

「よくわからないけど、決まりがないなら、してもいいってこと?」

「決まりがあろうがなかろうが、ワシはしちゃいかんと思う。世の中には文章で書かれている決まりよりも大事なものがあるんじゃ。アヤッペも、そのことをよく覚えておくんじゃぞ。そして将来、したり顔で『決まりがないならやってもいいはずだ』なんて言うヤツがいたら、そいつのことは絶対に信用してはいかん」

「したり顔ってなに?」

「したり顔っていうのは、本当は自信がないヤツが背伸びして賢そうに振る舞ったときになる顔のことじゃ。ネットの中には、そういうヤツがウヨウヨしておる」

「ふーん、なんかカッコ悪いね。ほかにも、いろんなポスターが貼ってあるけど、この中から誰かをひとりを選ぶんでしょ。ジイジは誰がいいの?」

関連記事

トピックス

林家ペーさんと林家パー子さんの自宅で火災が起きていることがわかった
《部屋はエアコンなしで扇風機が5台》「仏壇のろうそくに火をつけようとして燃え広がった」林家ぺー&パー子夫妻が火災が起きた自宅で“質素な暮らし”
NEWSポストセブン
1年ほど前に、会社役員を務める元夫と離婚していたことを明かした
《ロックシンガー・相川七瀬 年上夫との離婚明かす》個人事務所役員の年上夫との別居生活1年「家族でいるために」昨夏に自ら離婚届を提出
NEWSポストセブン
林家ペーさんと林家パー子さんの自宅で火災が起きていることがわかった
「パー子さんがいきなりドアをドンドンと…」“命からがら逃げてきた”林家ペー&パー子夫妻の隣人が明かす“緊迫の火災現場”「パー子さんはペーさんと救急車で運ばれた」
NEWSポストセブン
豊昇龍
5連勝した豊昇龍の横綱土俵入りに異変 三つ揃いの化粧まわしで太刀持ち・平戸海だけ揃っていなかった 「ゲン担ぎの世界だけにその日の結果が心配だった」と関係者
NEWSポストセブン
“高市潰し”を狙っているように思える動きも(時事通信フォト)
《前代未聞の自民党総裁選》公明党や野党も“露骨な介入”「高市早苗総裁では連立は組めない」と“拒否権”をちらつかせる異例の事態に
週刊ポスト
韓国アイドルグループ・aespaのメンバー、WINTERのボディーガードが話題に(時事通信フォト)
《NYファッションショーが騒然》aespa・ウィンターの後ろにピッタリ…ボディーガードと誤解された“ハリウッド俳優風のオトコ”の「正体」
NEWSポストセブン
立場を利用し犯行を行なっていた(本人Xより)
【未成年アイドルにわいせつ行為】〈メンバーがみんなから愛されてて嬉しい〉芸能プロデューサー・鳥丸寛士容疑者の蛮行「“写真撮影”と偽ってホテルに呼び出し」
NEWSポストセブン
佳子さまを撮影した動画がXで話題になっている(時事通信フォト)
《佳子さまどアップ動画が話題》「『まぶしい』とか『神々しい』という印象」撮影者が振り返る “お声がけの衝撃”「手を伸ばせば届く距離」
NEWSポストセブン
交際が報じられた赤西仁と広瀬アリス
《赤西仁と広瀬アリスの海外デートを目撃》黒木メイサと5年間暮らした「ハワイ」で過ごす2人の“本気度”
NEWSポストセブン
個別指導塾「スクールIE」の元教室長・石田親一容疑者(公式サイトより※現在は削除済み)
《15歳女子生徒にわいせつ》「普段から仲いいからやっちゃった」「エスカレートした」“やる気スイッチ”塾講師・石田親一容疑者が母親にしていた“トンデモ言い訳”
NEWSポストセブン
秋場所
「こんなことは初めてです…」秋場所の西花道に「溜席の着物美人」が登場! 薄手の着物になった理由は厳しい暑さと本人が明かす「汗が止まりませんでした」
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 「高市総理を阻止せよ」イカサマ総裁選の裏ほか
「週刊ポスト」本日発売! 「高市総理を阻止せよ」イカサマ総裁選の裏ほか
NEWSポストセブン