元プロボクサーのキャリアをレフェリーでも存分に発揮するマーチン氏。右はボクシングに転向した那須川天心(産経新聞社)
スリップか、ノックダウンか
スリップダウンかノックダウンかもレフェリーの判断だ。
ノックダウンは「足の裏以外がリングについた状態」で、レフェリーはカウントを始める。10カウントまでに立ち上がってファイティングポーズを取れなければKO(ノックアウト)となる。スリップダウンは相手のパンチが当たっていないのに自分で足を滑らせて尻もちなどをつくケース。レフェリーは試合を止めて「スリップダウン」を宣言する。当然、ダウンカウントはない。
だが、相手の攻撃で倒れたのか、自分でバランスを崩したのかが微妙なケースもある。その判定がトラブルになることは少なくない。
「選手は“ダメージを受けていない”とアピールするし、セコンドも“(相手のパンチが)当たっていない!”と猛抗議します。ノックダウンかどうかはジャッジの採点に繋がるので当然のことです。微妙なケースはレフェリー次第。研修では最も時間をかけて指導される、レフェリー泣かせのシーンのひとつです」
B級、A級にステップアップしても、常に審判員研修がある。ルール改正や特殊なケースを設定して審判員が状況を説明する。また、実際の試合のビデオを観て採点したうえで、次はスロー再生映像で同じ試合を採点する。さらに「このラウンドをどう判断したのか」「このパンチは有効打かどうか」といった点をディスカッションする。
審判員たちはそうやってレベルアップを続けている。
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KOは「ボクシングの華」といわれるが、レフェリーにとっては最も神経を使うシーンだ。ダウンする前にストップすると「早過ぎる」と批判されるが、意識朦朧としてサンドバック状態にさせてしまうと「手遅れ」となる。
「激しい打ち合いになると選手のダメージを見ます。これはレフェリーにしかできない。続行が無理だと判断したら、両者の間に割って入る前に“スト〜ップ!”と大声をあげる。この判断を瞬時にできるレフェリーこそ一流だと思います」