判断は必ずしも打ち合いの場面とは限らない。前のラウンドに多くパンチを浴びた選手であれば、1分間のインターバルで様子を観察する。ダメージが大きい場合は、次のラウンドで防戦一方になった時点で試合を止めることもある。

 印象深い試合をマーチンに訊ねると、「2013年8月の日本ミドル級タイトルマッチ」と即答した。やはりレフェリーストップが絡む試合だ。

 王者・胡朋宏の初防衛戦で、対戦相手はミドル級1位の中川大資。中川はすでに日本2階級制覇を成し遂げていた実力者だ。結果は7ラウンド2分56秒で胡がKO負け、王座から陥落した。7ラウンド残り4秒の場面で、マーチンは胡のダメージが大きいと判断して試合を止めた。胡はダウンからかろうじて立ち上がったが、マーチンは両手を頭上で交差してレフェリーストップしたのだ。

「胡選手は何も言わなかったが、セコンドからは“早すぎる”と猛抗議されました。ところが後日、胡選手が私のところに来て、『命を助けてくれてありがとうございました』と頭を下げたのです。試合をやっていた選手はわかるのでしょう」

 それから3年後、胡は日本ミドル級王者に返り咲いた。

「本当に嬉しかったです。あの試合をストップさせたことで次があった。ボクシングはあくまでもスポーツ。ファンやセコンドが騒ごうが、レフェリーは選手の命を守らないといけない。引退してからも長い人生が残っているのですから」

第3回に続く

※『審判はつらいよ』(小学館新書)より一部抜粋・再構成

【プロフィール】
鵜飼克郎(うかい・よしろう)/1957年、兵庫県生まれ。『週刊ポスト』記者として、スポーツ、社会問題を中心に幅広く取材活動を重ね、特に野球界、角界の深奥に斬り込んだ数々のスクープで話題を集めた。主な著書に金田正一、長嶋茂雄、王貞治ら名選手 人のインタビュー集『巨人V9 50年目の真実』(小学館)、『貴の乱』、『貴乃花「角界追放劇」の全真相』(いずれも宝島社、共著)などがある。ボクシングレフェリーのほか、野球、サッカー、大相撲など8競技のベテラン審判員の証言を集めた新刊『審判はつらいよ』(小学館新書)が好評発売中。

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