「伝説の選挙参謀」と呼ばれる選挙プランナーの藤川晋之助氏(時事通信フォト)
小池陣営よりに先にポスターを貼れた
藤川氏が言うように、威力を発揮したのがネットだった。都知事選では都内全域に1万4230か所の選挙ポスター掲示板が設置されたが、全部にポスターを貼るだけでも大変な労力がかかる。だが、組織を持たない石丸氏が序盤に貼り終えて他陣営を驚かせた。
「選挙が始まると、パソコンの扱いに慣れたボランティアがどの地域の掲示板に貼れているかを一目でわかるソフトをつくって、それをもとにポスター貼りのボランティアの方に、今日はこの方面のこのあたりを回る、という指示を効率的に出した。
動きもいい。ボランティアの方は自発的に応援してくれるので、例えば、組織に頼むと1人で1日500枚ぐらいしか公営掲示板に貼れませんが、ボランティアの方は1000枚ぐらい貼ってしまう。そのくらいの機動力がある。小池陣営より先にポスターが貼れている地域もありました」(藤川氏)
街頭演説も、石丸陣営は組織がないから、動員などかけられない。それなのに連日、石丸氏が行くところに聴衆が集まった。
「毎日朝に会議を開いて、今日はいつ、どこで演説会を開くか決め、即、石丸のホームページに告知をする。その情報をボランティアがSNSで拡散すると、自然に人が集まってきた。
私が指揮者の任を受けて演奏を始めようとした時には、ピアノはいない、ヴァイオリンもいないというスカスカの状態だったのに、途中から多くの人が『私が弾く』『私が吹く』『私が叩く』と言ってやってきて、一気にオーケストラとして音を奏でることができるようになった感覚です。最後はベートーベンの第九の演奏ぐらいできるんじゃないかと思いました。まさにネット時代の新たな選挙戦だった」(藤川氏)
今回の石丸旋風は石丸氏個人の力というより、“ネット民”による既成政治に対する反乱だった。若いネット民たちが街へ飛び出し、選挙ボランティアとなってSNSを武器に現実の選挙に参加していった。都知事選で敗れたとはいえ、いまや石丸氏はそのシンボルになりつつある。
※週刊ポスト2024年7月19・26日号