愛子(草笛さん)とハチが出会うシーン。ハチ(ハナ)のエピソードは原作でも映画でも涙を誘う。(c)2024映画「九十歳。何がめでたい」製作委員会 (c)佐藤愛子/小学館
『タイタニック』の頃はお客が入った
大黒座の創業は1918年のこと。現在の三上さんは4代目館主に当たる。
「父が館主を務めた戦後の最盛期は人があふれて220席に増改築したのですが、30年ほど前に建物の老朽化や道路の拡幅で映画館を改築しなければ続けられなくなり、いまのような48席になりました。それでも『千と千尋の神隠し』や『タイタニック』をかけていた頃はたくさん人が入ったのですが、大作が借りられなくなってどんどん厳しくなりましたね」(三上さん)
近年はコロナ禍と、Netflixやアマゾンプライムビデオなどに代表されるサブスクの台頭により、映画館の経営はさらに厳しくなるばかり。そんな状況を知っている佐藤さんが、この映画で少しでも浦河と大黒座が元気になれば—と願い、その思いが結実して、この度公開初日を迎えた。
7月21日朝10時からの初回には28人が席を埋めた。ご夫婦や子連れ、単身のかた……次々に館内へ入って行く顔はみんな笑顔だ。
「この2週間でいらっしゃったお客さんの数よりも多いです。家族みんなで行って満杯になると困るから、夫は夕方の回に行くねっておひとりでいらっしゃったかたもいました。映画の中で犬のハチ(原作ではハナ)と出会うシーンは浦河ですよね。エンドロールでも先生が犬を抱いて太平洋をバックに別荘で撮った写真が映っていて、感慨深かったです」(三上さん)
《今年(2015年・編集部注)の六月、ハナが死んだ。/ハナは十四年前、北海道の私の別荘の玄関の前に捨てられていたメス犬だ。生れて二、三か月というところか、両の手のひらに乗っかるくらいの大きさだった。夜が白々と明ける頃、クークーキャンキャンと啼く声に家中が目を覚ましたのだった》(『増補版 九十歳。何がめでたい』より)