そんな馬は無理強いしない方がいいかもしれない。「走れ走れ」って追い立てると嫌な馬もいる。自分から走りたくなるのを待つ。子供だって「勉強しなさい勉強しなさい」って言われてばかりだったら嫌になるでしょう。僕もそうでした(笑)。自分で「勉強って面白いな」と気づかないと本気にならないでしょう。好きなことは頑張れる。人間も馬も同じです。
走りたくてしょうがないという馬はむしろ怖い。自分でブレーキをかけないから故障しやすいかもしれません。
ソムリエは5月に東京で走った後、2か月ほど休養し、7月20日に札幌で出走。他の馬を気にすることのないよう、初めてブリンカーもつけました。何度か乗ってもらっている武豊騎手の好騎乗もありましたが、2着に4馬身差をつけて勝つことができました。
何度も言いますが、競馬は点ではなく線で見てほしい。何度も走ってきたからこそ、何をやったらいいかわかることがあります。厩舎所属の3歳馬のうち半分以上の11頭が勝ち上がりました。これからも1頭1頭、その馬の性格に合わせて向き合っていきたいと思います。
【プロフィール】
蛯名正義(えびな・まさよし)/1987年の騎手デビューから34年間でJRA重賞はGI26勝を含む129勝、通算2541勝。エルコンドルパサーとナカヤマフェスタでフランス凱旋門賞2着など海外でも活躍、2010年にはアパパネで牝馬三冠も達成した。2021年2月で騎手を引退、2022年3月に52歳の新人調教師として再スタートした。この連載をベースにした小学館新書『調教師になったトップ・ジョッキー~2500勝騎手がたどりついた「競馬の真実」』が発売中。
※週刊ポスト2024年8月30日・9月6日号