ライフ

オゼンピックの偽造品問題が世界に拡大、混入した余剰成分を原因とした健康被害に懸念、WHOが改めて警告

米国食品医薬品局(FDA)も偽造品の存在を警告。特定の製品番号や製造番号が使用されている(写真/FDA)

米国食品医薬品局(FDA)も偽造品の存在を警告。特定の製品番号や製造番号が使用されている(写真/FDA)

 肥満症薬として人気が過熱しているセマグルチド(商品名オゼンピック)の偽造品が世界的に出回っており、注意喚起されている。

 WHO(世界保健機関)が2024年6月に警告を発したほか、問題視する報道も相次いでいる。

WHO、オゼンピック偽造品で世界へ警告

 2024年6月、WHOは、糖尿病や肥満治療に使用されるセマグルチド(注:グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬として知られる薬。糖尿病治療を目的として開発されたが、体重減少の効果から肥満症治療を目的としても開発されている。セマグルチドは、糖尿病治療を目的とする場合、注射薬は「オゼンピック」という商品名で、飲み薬は「リベルサス」という商品名。オゼンピックは肥満症治療を目的とする場合、注射薬は「ウゴービ」という商品名で呼ばれている)の偽造品が世界各地で発見されたとして警告を発表した。

 この薬品の代表的なブランドであるオゼンピックが特に標的となり、ブラジル、英国、米国などで偽造品が発見されている。WHOによれば、2022年以降、これらの偽造品に関する報告が増加しており、今回の警告は初の公式通知となると解説している。

 WHOは、偽造されたセマグルチドが健康に深刻な影響を及ぼす可能性があると指摘。偽造品には有効成分が含まれていないか、もしくは他の未申告の成分が含まれている場合があり、これが血糖値の管理不全や心血管疾患のリスクの増大などの健康問題を引き起こす可能性があると注意喚起している。

 WHOの報告では、偽造品が特に危険なのは、注射デバイスにインスリンなどの未申告の成分が含まれているケースがあるためだ。これらの成分が予期せぬ健康被害を引き起こす可能性がある。例えば、インスリンが含まれていた場合、血糖値の急激な低下(低血糖症)を引き起こし、めまいや発作、最悪の場合は命に関わる可能性もある。インスリンに限らず、余計な成分が混入している可能性があり、偽造品使用は危険だ。

 セマグルチドは2型糖尿病患者に対して血糖値を下げる目的で処方されるほか、食欲抑制効果があり、肥満治療薬としても人気が高まっている。特に、オゼンピックは週1回の皮下注射型であることから利便性が評価されているが、こうした需要の増加と供給不足が偽造品の横行を招いている。

 同薬はダイエット目的でも使用されることが問題視されており、肥満ではない人が安易に使うことも問題になっている。こうした人が偽造品に手を出さないとも限らず、影響は病気の人にとどまらない。

FDAも米国内での偽造品問題を警告

 米国食品医薬品局(FDA)も、2023年12月にオゼンピックの偽造品に関する警告を発表した。

 特定のロット番号を付された偽造品が米国内の流通ネットワークで確認され、数千の製品が押収された。偽造品の中には針やラベルなどが偽造され、製品の品質や安全性が確認されていなかった。また、偽造品による健康被害が5件確認され、そのうちの1つは重篤な低血糖症によるものだった。幸い深刻な症状には至っていない。

 FDAは、正規の薬局からの購入するように求め、薬品のパッケージやロット番号に不審な点がないかを確認するよう呼びかけた。さらに、偽造品の報告をFDAに提出することで、今後の対策を強化する方針を示している。

 この9月には、ロイターも偽造品の問題を取り上げている。背景に犯罪組織による大規模な製造・流通ネットワークの存在が指摘された。複数の国で偽造品を原因とした入院患者が発生していると報じた。偽造品のロット番号が複数の国で共通し、一部の犯罪組織が関与している可能性が高いと指摘している。

 オゼンピックなどは日本でも人気を集めており、偽造品の問題は無縁ではない。十分に注意することが重要だ。

参考文献

WHO issues warning on falsified medicines used for diabetes treatment and weight loss

FDA warns consumers not to use counterfeit Ozempic (semaglutide) found in U.S. drug supply chain

Fake Ozempic: How batch numbers help criminal groups spread dangerous weight loss drugs

偽造ボツリヌス製剤、米国で4人が入院、呼吸困難を起こす人も、医療機関以外で美容目的に注射を受ける、米国疾病対策センターが詳細を報告

ボトックスビスタ偽造品が日本で初確認、米国で4月に警告、違法美容医療の摘発続く中で新たな問題、厚労省がメーカー文書発信

【プロフィール】
星良孝/ヒフコNEWS編集長。ステラ・メディックス代表、獣医師、ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。獣医師の資格を保有しており、専門性の高い情報にも対応できる。

ヒフコNEWS

ヒフコNEWSは、国内外の美容医療に関する最新ニュースをお届けするサイトです。美容医療に関連するニュースを中立的な立場から提供しています。それらのニュースにはポジティブな話題もネガティブな話題もありますが、それらは必ずしも美容医療分野全体を反映しているわけではありません。当サイトの目標は、豊富な情報を提供し、個人が美容医療に関して適切な判断を下せるように支援することです。また、当サイトが美容医療の利用を勧めることはありません。

関連キーワード

トピックス

運転席に座る広末涼子容疑者
《事故後初の肉声》広末涼子、「ご心配をおかけしました」騒動を音声配信で謝罪 主婦業に励む近況伝える
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン
真美子さん着用のピアスを製作したジュエリー工房の経営者が語った「驚きと喜び」
《真美子さん着用で話題》“個性的なピアス”を手がけたLAデザイナーの共同経営者が語った“驚きと興奮”「子どもの頃からドジャースファンで…」【大谷翔平と手繋ぎでレッドカーペット】
NEWSポストセブン
鶴保庸介氏の失言は和歌山選挙区の自民党候補・二階伸康氏にも逆風か
「二階一族を全滅させる戦い」との声も…鶴保庸介氏「運がいいことに能登で地震」発言も攻撃材料になる和歌山選挙区「一族郎党、根こそぎ潰す」戦国時代のような様相に
NEWSポストセブン
山尾志桜里氏に「自民入りもあり得るか」聞いた
【国民民主・公認取り消しの余波】無所属・山尾志桜里氏 自民党の“後追い公認”めぐる記者の直撃に「アプローチはない。応援に来てほしいくらい」
NEWSポストセブン
レッドカーペットを彩った真美子さんのピアス(時事通信)
《価格は6万9300円》真美子さんがレッドカーペットで披露した“個性的なピアス”はLAデザイナーのハンドメイド品! セレクトショップ店員が驚きの声「どこで見つけてくれたのか…」【大谷翔平と手繋ぎ登壇】
NEWSポストセブン
竹内朋香さん(左)と山下市郎容疑者(左写真は飲食店紹介サイトより。現在は削除済み)
《浜松ガールズバー殺人》被害者・竹内朋香さん(27)の夫の慟哭「妻はとばっちりを受けただけ」「常連の客に自分の家族が殺されるなんて思うかよ」
週刊ポスト
サークル活動に精を出す悠仁さま(2025年4月、茨城県つくば市。撮影/JMPA)
《普通の大学生として過ごす等身大の姿》悠仁さまが筑波大キャンパス生活で選んだ“人気ブランドのシューズ”ロゴ入りでも気にせず着用
週刊ポスト
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
遠野なぎこさん(享年45)、3度の離婚を経て苦悩していた“パートナー探し”…それでも出会った「“ママ”でいられる存在」
NEWSポストセブン
レッドカーペットに登壇した大谷夫妻(時事通信フォト)
《産後“ファッション迷子期”を見事クリア》大谷翔平・真美子さん夫妻のレッドカーペットスタイルを専門家激賞「横顔も後ろ姿も流れるように美しいシルエット」【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 石破政権が全国自治体にバラ撒いた2000億円ほか
「週刊ポスト」本日発売! 石破政権が全国自治体にバラ撒いた2000億円ほか
NEWSポストセブン