そして2002年、真田の演技力が高く評価されたのが映画『たそがれ清兵衛』だった。役柄は、幕末、庄内の海坂藩の下級武士・井口清兵衛役。ベテラン山田洋次監督がこだわり抜いた初時代劇映画で、真田にとっては初の山田作品だった。クライマックス、清兵衛と脱走した藩士(田中泯)との一騎打ちは、突く、斬る、たたく、リアルで激しい。この殺陣の撮影には10日間を費やしている。静かな暮らしに幸せを見出す武士と家族の心情が繊細に描かれたこの作品は、国内で数多くの映画賞を獲得し、米アカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされた。
この映画の美術監修を務めた西岡善信さん(2019年没)は、映像美術の大御所で、美術を担当した市川崑監督のドラマ『源氏物語』(1965年・毎日放送 光源氏は伊丹十三)はエミー賞フィクション賞(当時)を受賞している。もっとも、当時は「エミー賞ってなんやねん?」という雰囲気だった(西岡さん談)というから驚きだ。
その後、1980年に、リチャード・チェンバレン、三船敏郎らが出演した大作ドラマ『将軍 SHOGUN』でも美術を担当。この作品はエミー賞美術監督賞にノミネートされ、西岡さんたちは紋付き袴で会場に乗り込んだが、受賞は逃がしている。なお、真田主演『SHOGUN 将軍』 にテクニカル・スーパーバイザーとして参加している原田徹監督は、長く京都で深作欣二、五社英雄、工藤栄一など名だたる監督の時代劇に関わり、西岡さんの作品でも実績を積んだ演出家だ。
2003年、トム・クルーズ主演の映画『ラストサムライ』 出演を機に、真田はアメリカに拠点を移す。この作品には、「日本一の斬られ役」「五万回斬られた男」として知られた福本清三さん(2021年没)も出演していた。福本さんも真田を「ひろくん」と呼び、その成長と活躍を喜んでいた一人である。
『SHOGUN 将軍』の吉井虎長(真田)には、鋭さとともに風格があった。スピーチにあった「これまで時代劇を継承して支えてくださったすべての方々」がこの人物を作り上げたのだと思うと本当に感慨深い。続編に期待すると同時に、国内外で時代劇の情熱と夢がさらに広がることを願わずにはいられない。おめでとうございます!(時代劇研究家・コラムニスト・ペリー荻野)