北野監督とともに出演者の浅野忠信、大森南朋らも登場
“芸人・ビートたけし”の姿を、異国の映画ファンは丸ごと受け入れた
『Broken Rage』は北野監督が得意とする裏社会のクライムアクション。2部構成ながら62分の短尺である。北野監督は主演もしており彼が演じる一匹狼の殺し屋「ネズミ」が、浅野と大森が扮する刑事の手先となり、ヤクザのおとり捜査に加わる物語だ。前半は一般的なドラマに近いが、後半は同じ話をコメディ調で語り直すという“二段構え”。「暴力映画における笑い」をテーマに作られた遊び心満載の実験的な異色作だ。
ぶつかったり転んだり────チャールズ・チャップリンを思わせるコミカルな動きの数々に、観客は大喜び。欧州では“巨匠”のイメージが強い北野監督だが、日本人の私たちがよく知る “芸人・ビートたけし”の姿を、異国の映画ファンも丸ごと受け入れ、積極的に楽しんでいた。また、作中ではインターネット上の書き込み画面を模して、自身の映画にツッコミを入れるというメタ的な幕間風シーンも挿入。ウィットに富んだ笑いに対しても好反応だった。だが唯一、「コマネチ」のギャグのシーンだけは観客もポカンとしていた。とにかく約1000人で満員となった会場は、終始大きな笑いの渦に包まれたのだ。大勢の人と一緒に映画館で映画を見ることの喜びを再確認できたぶん、これが個々で見る「配信作品」というのが残念に思えたほどだ。
上映翌日には記者会見が行われた。開始早々、北野がAmazonとNetflixを取り違えるボケをかまし、慌てた浅野がすかさず「Amazonです」と口添えする一幕も。そして北野監督は、制作のいきさつについて口を開いた。
「Amazonから映画をやらないかって頼まれて、気楽に撮って。テレビの画面で流す映画で、やりたいことがあったので、テスト形式のような気持ちだった。まさか映画祭に来るとは夢にも思ってなくて、これは失敗したな、と。もうちょっと真剣にやるべきだったな」
「監督」から「俳優」への激励の言葉もあった。
「この2人(浅野、大森)は、俺が将来期待している人たち。いずれは日本の映画界を引っ張っていく役者さんだと思っていますので、皆さんも心に留めておいて」
そう紹介すると報道陣からは拍手があがり、北野監督の隣に座る大森は思わずガッツポーズを決めていた。また、浅野はエミー賞にノミネートされた話題の出演作『SHOGUN 将軍』について聞かれた。
「ノミネートは本当に嬉しい。やっぱりたけしさんとの出会いが僕には本当に大きかったですね。仕事の取り組み方が変わった。常にチャレンジする姿勢も含め、俳優の経験として活かされた」
終始、監督と俳優との良き関係性が伝わってくるような会見だった。そして会見終了が告げられると、世界中のジャーナリストたちは弾かれたように北野に一直線に走り寄り、仕事を忘れサインを求めていた。