大川周明(写真/共同通信社)

大川周明(写真/共同通信社)

堕落したアングロサクソン

佐藤:特に大川周明が憤ったのは、イギリスが自ら血を流さずに、アジア人同士を争わせてきたこと。「最も堕落した悪質なアングロサクソンであるイギリス」は、かつてイギリス人と戦ったインド人のセポイ兵をアロー号戦争では傭兵に使って中国人と殺し合いをさせていたじゃないか、と。

 同じアングロサクソンの国でも、当時のアメリカはまだそこまで「堕落」してはいないと大川は考えていた。しかし、アメリカはこの数十年で変質してしまった。かつてイギリスがやっていたことを反復している事実に、日本の保守はなぜ気づかないのだろう。

片山:親英米のバイアスが見えるものを見えないようにするのでしょうね。

佐藤:かつてアメリカは、日本との戦争はもちろん、ベトナム戦争も湾岸戦争も9・11後の戦争も、自分たちで戦っていた。ところがいまは、東スラブ族のウクライナ人を使って、同じ東スラブ族であるロシア人を叩かせている。自分たちは一滴も血を流さず、兵器と金を貸し付けて。新自由主義が急速に進み、戦争のアウトソーシングをするようになってしまった。

片山:石原莞爾の『戦争史大観』じゃないけれども、ローマ帝国が豊かになって傭兵や奴隷を戦わせたように、戦争を外部化させてゆく。それと似たようなことが現在、自国の一般市民を危険な目に遭わせないというある種の人権意識と、資本主義とが合わさって起きてしまったようです。

佐藤:台湾有事だって、どうなるか目に見えていますよ。アメリカはウクライナでやっているように、今度は台湾の中国人をして、大陸の中国人と戦わせる。自らが掲げる「自由」「民主主義」「人権」という価値のために。

 その意味で、岸田前首相や石破首相が言う「今日のウクライナは明日の東アジア」はその通りだと思う。間違って日本が憲法改正なんかしたら、アジアの問題はアジア人で解決せよ、なんてことになり、日本の若者が血を流すことになる。それだけは絶対に避けなければならない。

後編につづく

【プロフィール】
佐藤優(さとう・まさる)/1960年、東京都生まれ。元外交官、作家。同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。主著に『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)、近著に『賢人たちのインテリジェンス』(ポプラ新書)など。

片山杜秀(かたやま・もりひで)/1963年、宮城県生まれ。政治思想史研究者、音楽評論家。慶應義塾大学法学部教授。慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。主著に『未完のファシズム』(新潮選書)、近著に『大楽必易 わたくしの伊福部昭伝』(新潮社)など。

取材・構成/前川仁之(文筆家)

※週刊ポスト2024年12月20日号

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