11月下旬、東京・神保町で行われた韓国の本のイベント「K-BOOKフェスティバル」にて。チョン・セランさんはじめ、いま注目の韓国人作家の代表作が紹介され、2日間の来場者数は約3200人と大盛況だった

11月下旬、東京・神保町で行われた韓国の本のイベント「K-BOOKフェスティバル」にて。チョン・セランさんはじめ、いま注目の韓国人作家の代表作が紹介され、2日間の来場者数は約3200人と大盛況だった

 純文学であるハン・ガン作品はテーマも重く、やや難解だといわれるが、その中でまず手に取るなら、どの作品がいいのか。

「2011年に初めて日本で紹介された『菜食主義者』です。歴史的な背景を知らなくても大丈夫だと思いますし、連作小説なので少しずつ読み進められます」

『菜食主義者』は、ある日突然肉食を拒否し、死に向かっていく女性の物語。前述のとおり、イ・サン文学賞のほか2016年に英国のマン・ブッカー国際賞を受賞し、世界に知られる契機となった。

「主人公が“木になりたい”と願うところが、植物好きの私には強く共感できましたが、当時、仲間からは『あんな怖い作品に共感?』と言われたものでした(笑い)。

 不思議な物語ではありますが、父親が無理矢理肉を食べさせようとするシーンには韓国の家父長制に対する無言の抵抗が表現されるなど、ハン・ガンさんらしい間接的なメッセージがちりばめられています」

 古川さんが翻訳した初期のエッセイ集『そっと 静かに』は、音楽にまつわる回想が詩的に綴られている。

「この作品は、当時(2007年頃)、腕や指の痛みで書くことができず、精神的にも苦しんでいた時期に執筆したもの。一時は書くことをあきらめるほどの絶望を抱えていたそうです。しかし、文章は決して暗いものではなく、『よしよし』と慰められる安心感や、『もう一回頑張ってみよう』と励まされる感じもある。彼女の静かな文章の中に、苦しみながらも立ち上がる芯の強さが感じられます」

 先に挙げた著作のほか、小説『ギリシャ語の時間』(晶文社)、『回復する人間』(白水社)、短編集『すべての、白いものたちの』(河出文庫)、詩集『引き出しに夕方をしまっておいた』(クオン)と、日本語で読めるハン・ガン作品は8作。美しい装丁とともに、ハン・ガンワールドに身を委ねてみたい。

関連キーワード

関連記事

トピックス

不倫報道のあった永野芽郁
《田中圭との不倫疑惑》永野芽郁のCMが「JCB」公式サイトから姿を消した! スポンサーが懸念する“信頼性への影響”
NEWSポストセブン
元交際相手の白井秀征容疑者(本人SNS)のストーカーに悩まされていた岡崎彩咲陽さん(親族提供)
《川崎ストーカー殺人事件》「テーブルに10万円置いていきます」白井秀征容疑者を育んだ“いびつな親子関係”と目撃された“異様な執着心”「バイト先の男性客にもヤキモチ」
NEWSポストセブン
騒然とする改札付近と逮捕された戸田佳孝容疑者(時事通信)
《凄惨な現場写真》「電車ドア前から階段まで血溜まりが…」「ホームには中華包丁」東大前切り付け事件の“緊迫の現場”を目撃者が証言
NEWSポストセブン
2013年の教皇選挙のために礼拝堂に集まった枢機卿(Getty Images)
「下馬評の高い枢機卿ほど選ばれない」教皇選挙“コンクラーベ”過去には人気者の足をすくうスキャンダルが続々、進歩派・リベラル派と保守派の対立図式も
週刊ポスト
不倫疑惑が報じられた田中圭と永野芽郁
《離婚するかも…と田中圭は憔悴した様子》永野芽郁との不倫疑惑に元タレント妻は“もう限界”で堪忍袋の緒が切れた
NEWSポストセブン
成田市のアパートからアマンダさんの痛いが発見された(本人インスタグラムより)
《“日本愛”投稿した翌日に…》ブラジル人女性(30)が成田空港近くのアパートで遺体で発見、近隣住民が目撃していた“度重なる警察沙汰”「よくパトカーが来ていた」
NEWSポストセブン
不倫疑惑が報じられた田中圭と永野芽郁
《スクショがない…》田中圭と永野芽郁、不倫の“決定的証拠”となるはずのLINE画像が公開されない理由
NEWSポストセブン
小室圭さんの“イクメン化”を後押しする職場環境とは…?
《眞子さんのゆったりすぎるコートにマタニティ説浮上》小室圭さんの“イクメン”化待ったなし 勤務先の育休制度は「アメリカでは破格の待遇」
NEWSポストセブン
食物繊維を生かし、健全な腸内環境を保つためには、“とある菌”の存在が必要不可欠であることが明らかになった──
アボカド、ゴボウ、キウイと「◯◯」 “腸活博士”に話を聞いた記者がどっさり買い込んだ理由は…?《食物繊維摂取基準が上がった深いワケ》
NEWSポストセブン
千葉県成田市のアパートの1室から遺体で見つかったブラジル国籍のボルジェス・シウヴァ・アマンダさん、遺体が発見されたアパート(右・instagram)
〈正直な心を大切にする日本人は素晴らしい〉“日本愛”をSNS投稿したブラジル人女性研究者が遺体で発見、遺族が吐露した深い悲しみ「勉強熱心で賢く、素晴らしい女の子」【千葉県・成田市】
NEWSポストセブン
遺体には電気ショックによる骨折、擦り傷などもみられた(Instagramより現在は削除済み)
《ロシア勾留中に死亡》「脳や眼球が摘出されていた」「電気ショックの火傷も…」行方不明のウクライナ女性記者(27)、返還された遺体に“激しい拷問の痕”
NEWSポストセブン
当時のスイカ頭とテンテン(c)「幽幻道士&来来!キョンシーズ コンプリートBDーBOX」発売:アット エンタテインメント
《“テンテン”のイメージが強すぎて…》キョンシー映画『幽幻道士』で一世風靡した天才子役の苦悩、女優復帰に立ちはだかった“かつての自分”と決別した理由「テンテン改名に未練はありません」
NEWSポストセブン