戦後の重大公安事件を総括した『総括 戦後公安事件秘録』

戦後の重大公安事件を総括した『総括 戦後公安事件秘録』

地検の幹部が激怒

 彼らの計画では、昭和天皇が静養先の那須御用邸から8月15日に日本武道館で開かれる全国戦没者追悼式に出席するため東京に戻るところを狙うとされていた。

「場所は埼玉県と東京都の県境の荒川鉄橋。8月上旬に爆弾が製造されていたのもそれに間に合わせるためでした。押収品のうち、縄はしごは河川敷から線路までよじ登るため、長い電線は有線で起爆するために用意したものだったのです」

 大道寺はお召し列車が鉄橋を通過する時間を調べあげ、8月14日の午前10時58分から11時2分の間と弾き出した。列車が通過する前日深夜、彼らは爆弾を仕掛けに向かう。しかし、現場に不審な男性たちいるのを見て警察官の存在を疑い、作戦を断念した。

「天皇暗殺はいかに過激派といえども、どのセクトもやったことがない。やはりいざとなると怖気づいたのではないか」

 レインボー作戦を知っていたのは、警視庁と東京地検のごく一部だけ。徹底的に秘匿された。

「近く予定されていた天皇の初訪米に向けて、過激派を刺激したくないとの警視庁の意向があったのです。地検の幹部から『なぜ黙っていたんだ!』と激怒されましたが、私たちは唯々、お叱りを受けるしかありませんでした」

 その後、組織をビル爆破事件へと駆り立てたのは、レインボー作戦の実行予定日の翌日に韓国・ソウルで起きた朴正煕大統領暗殺未遂事件だった。

「この事件に『後れをとった』と焦った彼らは、急ぎ行動を取るべくレインボー作戦のために製造した爆弾を転用し三菱重工ビルを狙ったのです」

 大道寺は死刑判決確定後、収監中に病死。妻・あや子は日本赤軍のダッカ事件で超法規的措置により釈放され出国。現在も国際指名手配中である。

「レインボー作戦は未遂で済みましたが、歴史は繰り返すものです。国家を揺るがす事件はいつどこで起きてもおかしくはない。そのことを忘れないでほしい」

【プロフィール】
緒方重威(おがた・しげたけ)/1934年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒業。甲府地検、東京地検などを経て、1993年に公安調査庁長官に就任。その後、広島高検検事長を最後に定年退官し、弁護士となる。2005(平成17)年、瑞宝重光章受章(その後自主返納)。

竹中明洋(たけなか・あきひろ)/1973年、山口県生まれ。NHK記者、衆議院議員秘書、「週刊文春」記者などを経てフリージャーナリストに。著書に『殺しの柳川 日韓戦後秘史』、『決別 総連と民団の相克77年』(ともに小学館)などがある。『総括 戦後公安事件秘録』(小学館)の構成を務めた。

※週刊ポスト2025年4月11日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

ロシアのプーチン大統領と面会した安倍昭恵夫人(時事通信/EPA=時事)
プーチンと面会で話題の安倍昭恵夫人 トー横キッズから「小池百合子」に間違われていた!
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問される佳子さま(2025年6月4日、撮影/JMPA)
《ブラジルへ公式訪問》佳子さま、ギリシャ訪問でもお召しになったコーラルピンクのスーツで出発 “お気に入り”はすっきり見せるフェミニンな一着
NEWSポストセブン
「日本人ポップスターとの子供がいる」との報道もあったイーロン・マスク氏(時事通信フォト)
イーロン・マスク氏に「日本人ポップスターとの子供がいる」報道も相手が公表しない理由 “口止め料”として「巨額の養育費が支払われている」との情報も
週刊ポスト
中居の女性トラブルで窮地に追いやられているフジテレビ(右・時事通信フォト)
《会社の暗部が暴露される…》フジテレビが恐れる処分された編成幹部B氏の“暴走” 「法廷での言葉」にも懸念
NEWSポストセブン
渡邊渚さんが性暴力問題について思いの丈を綴った(撮影/西條彰仁)
《渡邊渚さん独占手記》性暴力問題について思いの丈を綴る「被害者は永遠に救われることのない地獄を彷徨い続ける」
週刊ポスト
母・佳代さんと小室圭さん
《眞子さん出産》“一卵性母子”と呼ばれた小室圭さんの母・佳代さんが「初孫を抱く日」 知人は「ふたりは一定の距離を保って接している」
NEWSポストセブン
長嶋茂雄さんとの初対戦の思い出なども振り返る
江夏豊氏が語る長嶋茂雄さんへの思い 1975年オフに持ち上がった巨人へのトレード話に「“たられば”はないが、ミスターと同じチームで野球をやってみたかった」
週刊ポスト
元タクシー運転手の田中敏志容疑者が性的暴行などで逮捕された(右の写真はイメージです)
《泥酔女性客に睡眠薬飲ませ性的暴行か》警視庁逮捕の元タクシー運転手のドラレコに残っていた“明らかに不審な映像”、手口は「『気分が悪そうだね』と水と錠剤を飲ませた」
NEWSポストセブン
金田氏と長嶋氏
《追悼・長嶋茂雄さん》400勝投手・カネやんが明かしていた秘話「一緒に雀卓を囲んだが、あいつはルールを知らなかったんじゃないか…」「初対決は4連続三振じゃなくて5連続三振」
NEWSポストセブン
違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者と職業不詳・奥本美穂容疑者(32)が逮捕された(左・Instagramより)
《レーサム創業者が“薬物付け性パーティー”で逮捕》沈黙を破った奥本美穂容疑者が〈今世終了港区BBA〉〈留置所最高〉自虐ネタでインフルエンサー化
NEWSポストセブン
《女子バレー解説席に“ロンドン五輪メダル組”の台頭》日の丸を背負った元エース・大林素子に押し寄せる世代交代の波、6年前から「二拠点生活」の現在
《女子バレー解説席に“ロンドン五輪メダル組”の台頭》日の丸を背負った元エース・大林素子に押し寄せる世代交代の波、6年前から「二拠点生活」の現在
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! ミスター長嶋茂雄は永久に!ほか
「週刊ポスト」本日発売! ミスター長嶋茂雄は永久に!ほか
NEWSポストセブン