国内

元公安調査庁長官が明かす、幻の“昭和天皇暗殺計画” 桐島聡が所属した東アジア反日武装戦線が企てたお召し列車爆破計画「レインボー作戦」はなぜ未遂に終わったか

回顧録を上梓した元公安調査庁長官の緒方重威氏

回顧録を上梓した元公安調査庁長官の緒方重威氏

 暴力によって国家転覆を図らんと若者らが狂気のテロに走った1960年代から1970年代。ハイジャックや爆弾テロと相次ぐ事件の裏で未遂に終わった幻の天皇暗殺計画があった。元公安調査庁長官が明かした捜査秘録をジャーナリストの竹中明洋氏がレポートする。

 * * *
 昨年1月、警察が半世紀近くにわたって行方を追い続けていた男が死の間際に自ら名乗り出た。神奈川県藤沢市の路上で倒れていた男は病院に搬送された当初、「内田洋」と名乗っていた。だが、末期がんとの診断を受けて入院するうちに病院関係者に本名を明かす。男は1974年から1975年にかけて連続企業爆破事件を起こした過激派組織「東アジア反日武装戦線」メンバーの桐島聡だった。

「彼が名乗り出たとの報道を目にして、捜査当時の記憶がまざまざと蘇ってきました。治安の根幹を守ろうと私たちは彼らと必死で対峙しました。後世のためにその記録を残すことが私の使命だと思ったのです」

 そう話すのは、元公安調査庁長官の緒方重威氏だ。今年91歳を迎える緒方氏は、1960年代から1970年代にかけて東京地検公安部の検事を6年近くにわたって務めたこともあり、戦後の公安事件を熟知する生き証人である。

 このほど上梓した『総括 戦後公安事件秘録』では、東大安田講堂事件やよど号ハイジャック事件、地下鉄サリン事件など、担当検事あるいは公安調査庁長官として自らが関わった事件を克明に記している。

 その緒方氏が「長い捜査人生のなかであれほどの戦慄を覚えた瞬間はなかった」と振り返るのが、東アジア反日武装戦線が企てた昭和天皇の暗殺計画である。1974年8月30日、丸の内仲通りに面した三菱重工業本社ビルが轟音とともに爆破された。霞が関の東京地検から現場に駆けつけた緒方氏はその凄惨さに息を飲んだという。

「爆発した場所から数百メートルも離れた晴海通りとの交差点あたりから仲通りはもうガラス片で足の踏み場がないほどです。爆風の凄まじさに圧倒されました」(緒方氏。以下「 」内は同じ)

 爆発による死者は8人、負傷者は376人に上り、戦後最悪の爆弾テロ事件となった。事件から3週間後、「東アジア反日武装戦線」なる組織が犯行声明を出す。だが、警視庁、東京地検ともに把握していないグループだった。捜査側を嘲笑うかのように、その後も三井物産や大成建設など企業を狙った爆破事件が相次いだ。

 当初は実行犯の特定ができず攻めあぐねていたが、爆弾の製造法を解説した教本が地下出版されていたことを突き止め、犯行グループの正体が徐々に解明されていく。三菱重工業の爆破事件から9か月後の1975年5月、警視庁はメンバーら7人を一斉検挙。この時に逃げおおせたのが桐島聡である。一斉検挙があった日、緒方氏は出張で米国にいた。現地のテレビで知り驚いたという。

「警視庁の捜査がそこまで積み上がっていたとは思ってもみませんでした。公安部の検事だった私にも知らせないほど保秘が徹底されていたのです」

関連キーワード

関連記事

トピックス

解散を発表したTOKIO(HPより)
《TOKIO解散には迷いなし?》松岡昌宏、「男気会見」で隠せなかった本音 唯一違った“足の動き”を見せた質問とは?
NEWSポストセブン
佐々木希と渡部建
《六本木ヒルズ・多目的トイレ5年後の現在》佐々木希が覚悟の不倫振り返り…“復活”目前の渡部建が世間を震撼させた“現場”の動線
NEWSポストセブン
東川千愛礼(ちあら・19)さんの知人らからあがる悲しみの声。安藤陸人容疑者(20)の動機はまだわからないままだ
「『20歳になったらまた会おうね』って約束したのに…」“活発で愛される女性”だった東川千愛礼さんの“変わらぬ人物像”と安藤陸人容疑者の「異変」《豊田市19歳女性殺害》
NEWSポストセブン
児童盗撮で逮捕された森山勇二容疑者(左)と小瀬村史也容疑者(右)
《児童盗撮で逮捕された教師グループ》虚飾の仮面に隠された素顔「両親は教師の真面目な一家」「主犯格は大地主の名家に婿養子」
女性セブン
組織が割れかねない“内紛”の火種(八角理事長)
《白鵬が去って「一強体制」と思いきや…》八角理事長にまさかの落選危機 定年延長案に相撲協会内で反発広がり、理事長選で“クーデター”も
週刊ポスト
ディップがプロバスケットボールチーム・さいたまブロンコスのオーナーに就任
気鋭の企業がプロスポーツ「下部」リーグに続々参入のワケ ディップがB3さいたまブロンコスの新オーナーなった理由を冨田英揮社長は「このチームを育てていきたい」と語る
NEWSポストセブン
たつき諒著『私が見た未来 完全版』と角氏
《7月5日大災害説に気象庁もデマ認定》太陽フレア最大化、ポピ族の隕石予言まで…オカルト研究家が強調する“その日”の冷静な過ごし方「ぜひ、予言が外れる選択肢を残してほしい」
NEWSポストセブン
佐々木希と渡部建
《渡部建の多目的トイレ不倫から5年》佐々木希が乗り越えた“サレ妻と不倫夫の夫婦ゲンカ”、第2子出産を迎えた「妻としての覚悟」
NEWSポストセブン
大阪・関西万博で、あられもない姿をする女性インフルエンサーが現れた(Xより)
《万博会場で赤い下着で迷惑行為か》「セクシーポーズのカンガルー、発見っ」女性インフルエンサーの行為が世界中に発信 協会は「投稿を認識していない」
NEWSポストセブン
詐称疑惑の渦中にある静岡県伊東市の田久保眞紀市長(HP/Xより)
《東洋大学に“そんなことある?”を問い合わせた結果》学歴詐称疑惑の田久保眞紀・伊東市長「除籍であることが判明」会見にツッコミ続出〈除籍されたのかわからないの?〉
NEWSポストセブン
愛知県豊田市の19歳女性を殺害したとして逮捕された安藤陸人容疑者(20)
事件の“断末魔”、殴打された痕跡、部屋中に血痕…“自慢の恋人”東川千愛礼さん(19)を襲った安藤陸人容疑者の「強烈な殺意」【豊田市19歳刺殺事件】
NEWSポストセブン
都内の日本料理店から出てきた2人
《交際6年で初2ショット》サッカー日本代表・南野拓実、柳ゆり菜と“もはや夫婦”なカップルコーデ「結婚ブーム」で機運高まる
NEWSポストセブン