外食メニューの定番でもある「ナポリタン」
古くから日本人に親しまれてきたスパゲッティ「ナポリタン」。その名を知らない人はいないと言ってもいいほど、おなじみの存在だろう。昨今では昭和レトロブームで、昔ながらの喫茶店の定番メニューとして、再び脚光を浴びている。
しかしながら、いま外食時に「ナポリタン」を選択する人はどれだけいるだろうか。長きにわたり愛されてきた存在といえども、かつてに比べると人々から選ばれにくくなっている。
その背景には、さまざまな要因があるようだ。節目となったのは、バブル景気と重なる1980年代の「グルメブーム」の時期だという。日本ナポリタン学会会長・田中健介氏は、ナポリタンが「外食」として大きな転換期を迎えた時期としてとらえている。なぜ、その時期を境に「外食のナポリタン」は衰退の道をたどったのか──。
田中氏の著書『ナポリタンの不思議』(マイナビ出版)より、外食としてナポリタンが選ばれにくくなった理由についてお届けする。(同書より一部抜粋して再構成)【全3回の第2回。第1回を読む】
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【1】グローバル化によるナポリタンのガラパゴス化
グルメブームは、フランス料理をはじめ各国の食文化を我々日本人に植え付け、食のグローバル化を進めた。
特に「イタ飯ブーム」は大きな影響を与えることとなった。「サイゼリヤ」が本物のイタリア料理をリーズナブルな値段で全国で食べさせてくれるまでに定着した例を見れば明らかであろう。
イタ飯ブームで本格的なイタリア料理店が増え、人々はそこに足を運んではスパゲッティカルボナーラやジェノベーゼスパゲッティなど、様々なスパゲッティ料理を楽しむこととなる。その過程で、イタリア料理のメニューにスパゲッティナポリタンの文字がないことに気付くのである。そして同時にスパゲッティの茹でたてのわずかに芯が残るかどうかの絶妙な食感、「アルデンテ」という言葉も覚えることとなるのだ。
アルデンテという概念がなかった時代、当時日本人に好まれたうどんのような食感を求めて茹でた麺を冷蔵庫で一晩寝かすという工程は、ナポリタンだけのものとなってしまい、茹でたて麺を迅速に提供するイタリア料理店ではメニューに入れると手間が増えるだけである。
またトマトソースが生命線とも言えるイタリア料理店でトマトケチャップを用いること、それを前面に出してしまうことは、その店の根幹を揺らがせかねないだろう。
「フランス料理でもガロニ(付け合わせ)としてスパゲッティを用いることは今はあまりなくなりましたね」と、ホテルニューグランド名誉総料理長の宇佐神茂氏も話すように、グルメブームにおけるフランス料理の世界でも、イタ飯ブームで急速にスパゲッティ料理が発展し、人々がいろいろな知識を持ってしまった以上、わざわざガロニにスパゲッティを付けるようなことをするよりは、フランス料理はフランス料理としてさらに文化を深めていったのだろう。
スパゲッティナポリタンは、こうしたガラパゴス化によって危機的状況となった。