「お笑い米軍基地」が挑んだ新作コント「シュウダン・ジケツ」(撮影/西野嘉憲)
沖縄で「基地を笑え!」をコンセプトに掲げるコント集団がある。那覇出身の芸人、「まーちゃん」こと小波津正光が率いる「お笑い米軍基地」だ。劇団の創設から20年、戦後80年の節目を迎えた今年、「シュウダン・ジケツ」と題した新作コントを世に問うた。その挑戦にかける思いを、ノンフィクションライターの中村計氏がレポートする。(前後編の前編)
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「戦争を語るとき、悲劇で止まっちゃいけない。時代時代で、ツッコミを入れないと」
そう語るのは沖縄で「お笑い米軍基地」というコント集団を率いる芸人のまーちゃんだ。
「だって、戦争っておかしなことばっかりじゃないですか。いったら、究極のボケですよ。ツッコミどころ満載。それをやったのがチャップリンの『独裁者』だと思うんです。誰もが言いたくても言えないことを喜劇の中で言葉にしてくれた」
お笑い米軍基地を旗揚げしたのは2005年のこと。まーちゃんが30歳のときだ。今年、第1回公演から20回目の夏を迎えた。
毎年、この時期になると県内数カ所で新作公演ツアーを開催しており、沖縄の風物詩と言ってもいい存在になっている。沖縄ではエンターテインメントの前売り券を買う習慣が根付いておらず、どんなジャンルであってもチケットの販売にはだいたい苦戦する。しかし、お笑い米軍基地の前売り券は毎回、ほぼ完売状態が続いている。
劇団名からも想像できるように、まーちゃんが扱うテーマは、それまで沖縄ではお笑いとして触れることはタブーとされてきた米軍基地がメインである。そこから派生し、戦争や政治のネタでも笑いを生み出している。
沖縄の人は米軍基地反対と言いながらも基地内のフェスティバルを楽しみにしていたり、沖縄米軍基地はじつは希少な動植物の保全に貢献していたり、基地の反対運動をする人とそれを食い止める警備員が奇妙な友情で結ばれていたり。沖縄の人たちにとっては当たり前になっている矛盾に対し、まーちゃんは「それ、おかしいでしょ!」とツッコみ、客は「本当にそうだ」と思わず大笑いしてしまうのだ。
まーちゃんが大事にしている言葉がある。
〈人生はクローズアップで見ると悲劇だが、ロングショットで見ると喜劇だ〉
敬愛するチャップリンのセリフである。沖縄県民はお笑い米軍基地を鑑賞し、客観的な視野を手に入れてもいるのだ。