枢機卿たちの投票の行方は(教皇フランシスコ/Getty Images)
教皇フランシスコの死去を受け、14億人の信徒を抱えるカトリック教会のトップに立つ「神の代理人」を選ぶ教皇選挙(コンクラーベ)が開催。映画『教皇選挙』では、ライバルを蹴落とそうとする聖職者たちの暗闘が描かれ異例のヒット作となったが、現実世界では、映画より激しい権力闘争が展開されるのだという。ノンフィクション作家・広野真嗣氏がレポートする。【前後編の後編。前編から読む】
選挙直前に繰り広げられる“情報戦”
選挙当日に向けてバチカンでは連日枢機卿会議が開催されたが、情報戦も激しさを増した。今回はSNSなどでフェイクニュースが拡散される騒ぎもあり、進歩派と保守派をつなげる最有力候補の1人とされたイタリア出身のパロリン枢機卿(70)をめぐっては、米国メディアなどが健康不安説を報じ、バチカンの報道官が完全否定に走る一幕まであった。
本家イタリアはもちろん、欧州やアフリカから有力者の名が挙がるなかで注目されたのはフィリピン人の枢機卿ルイス・アントニオ・タグレ氏(67)。カトリック系のニュースサイトで「アジアのフランシスコ」とも称される進歩派の聖職者だ。選挙直前には「天国も宗教もない」という歌詞のあるジョン・レノンの『イマジン』を歌う数年前の動画が発掘され、保守派のバッシングを浴びる事態となった。
フィリピンのカトリック教会は出稼ぎ労働を通じて各地に信徒を送り出し、彼らを通じてタグレ氏は世界に影響力を持つ。ただ、地元フィリピンでは、麻薬戦争で数千人を殺害したロドリゴ・ドゥテルテ前大統領にタグレ氏が厳しい姿勢で対峙しなかったと非難もされた。
新教皇には、ドゥテルテ氏よりもはるかに強大な「力の信奉者」と向き合うことが求められる。亡くなった教皇フランシスコは2016年2月、「橋を渡すことでなく壁を造ることだけを考えている人はキリスト教徒ではない」と発言し、台頭しつつあった大統領候補(当時)のトランプ氏を牽制した。