地震によって倒壊した建設中のビル。2025年3月28日、タイ・バンコク(AFP=時事)
「おから工事」が輸出された
東南アジアでも、中国経済の低迷の煽りをうけた日本人が「泣いている」という。
「先日、ミャンマーで発生した大地震の影響で、震源から1000キロも離れたタイで建設中だった高層ビルが崩壊しました。ビルの建設は中国の政府系建設会社が主導で行っていましたが、その後、中国人の関係者が逮捕されています。東南アジアでは、こうした中国政府系の建設会社が数多くの建設を担っていますが、他の建物は大丈夫か?と、地元民の間でも話題になっているのです」
こう説明するのは、タイ・バンコクで日本人向けに不動産投資物件を販売する男性。東南アジア諸国は世界的に見ても大変な「成長市場」であり、世界中から資本が投下されている。日本からタイへは移住先としてだけでなく、不動産投資の対象としても人気が高いので、日本人向けビジネスが成り立つのだ。
魅力的な市場を投資先として中国が見逃すわけもなく、さかんに進出していたが、2017年に着工した中国製高速鉄道は2021年開業予定が大きく遅れ、2022年に開業見通しを2027年に変更、今年1月はさらに2030年開通予定と改めて発表された。将来、ラオスを経由して中国と繋がる予定だと発表されていたが、タイのネットユーザーからは、生きているうちに開業を見られるのかと皮肉られている。この高速鉄道は、2013年に習近平主席が唱えた、中国とヨーロッパを結ぶ広域経済構想「一帯一路」の一環として手がけられているのだが、地震で倒壊したバンコクで建設中のビルも、その構想と無関係ではないという。
「崩壊したビルは、中国の一帯一路構想を進める上では欠かせない、中国政府系の大企業です。そんな大企業でさえ、いわゆる”おから工事”をしていたとなると、他の中国系建設会社の物件はどうなんだと騒ぎになっています。中国系の会社が建設途中の物件で様々な不具合が見つかったと、地元メディアでは連日報道され、その中には、私が仲介した物件もありました。顧客からは文句を言われ、問題物件の建設会社や代理店はいきなり音信不通です」(バンコクの不動産会社の男性)
“おから工事”という言葉に日本人がなじみがないのも当然で、中国語「豆腐渣工程」の日本語訳である。鉄筋やコンクリートで作られるはずの建築物が、ごみや砂、廃材などを使って建てると、おからのようにポロポロ崩れる、ということから中国で手抜き工事のことを「おから」と呼ぶようになり、最近の中国圏では広く一般で使われている。中国国内でも”おから工事”が相次ぎ大きな問題になっていたというが、それが東南アジア諸国に「輸出」された格好なのだという。
中国経済の低迷を、多くの日本人は対岸の火事としか捉えていないだろう。だが、中国に泣かされる世界はさらに増え、間違いなくそのなかに日本人も含まれるだろう。現在のところ、中国によるおから工事が日本国内に流入する恐れはなさそうだが、中国景気が日本国内の日本人に影響を及ぼし始めている。ぼんやりとした経済や外交の話ではなく、債務不履行による実害が、一人一人の日本の一般市民に襲いかかってくる可能性を覚悟しておいたほうがよさそうだ。