フランス凱旋門賞も経験、34年間の騎乗で夏のレースも冬レースも知りつくす蛯名正義氏
聞いている時は何を言っているのかわからなかったけれど、レースに行ってそういうことだったのかと思い当たることもありました。どうしてああいう乗り方をしたのだろうと思ったときは、こちらから聞きに行きましたね。「そんなことあったっけ？」ととぼけられたり（笑）、はぐらかされたりということもあったけれど、だいたいは教えてくれました。後輩に教えるというのも文化だったのかもしれません。競馬のことだけじゃなくて、社会人としてのたしなみ、心構えなんかも教えてもらいましたね。
今は競馬界だけじゃなくて、一般の会社でも先輩後輩の関係は希薄になっていると聞きます。スパルタなんて流行らなくなったし、行き過ぎた指導はパワハラと言われるようになった。時代が変わりました。
それも競馬が一部の人だけが熱中するギャンブルじゃなくて広くスポーツとして見られるようになったからでしょう。でも勝負の世界で人より上に行くためには、もっと勝ちたい、もっとリーディングで上に行きたいという思いが強くないと、どんなに勉強しても吸収できない。何か他の人と違うことを試してみたり、人とは違う視点で物事を見たり──たとえば海外に出向いて長期間修業するなど──試行錯誤している騎手も多くいるように思います。これからが楽しみです。
【プロフィール】
蛯名正義（えびな・まさよし）／1987年の騎手デビューから34年間でJRA重賞はGI26勝を含む129勝、通算2541勝。エルコンドルパサーとナカヤマフェスタでフランス凱旋門賞2着など海外でも活躍、2010年にはアパパネで牝馬三冠も達成した。2021年2月で騎手を引退、2022年3月に52歳の新人調教師として再スタートした。この連載をベースにした小学館新書『調教師になったトップ・ジョッキー 2500勝騎手がたどりついた「競馬の真実」』が発売中。
※週刊ポスト2025年5月23日号
