マニラで撮影のロケが行われたフィリピン人女性監督が描いた「日本人の孤独死」、主演はリリー・フランキー(【c】「Diamonds in the Sand」Film Partners)

マニラで撮影のロケが行われた(【c】「Diamonds in the Sand」Film Partners)

 考察を深めていく中で、ジャヌスは日本とフィリピンの価値観の違いにも着目した。何がその人の価値を決めるのか、である。

「日本では人間の価値は、自分がやっている仕事や成し遂げたことで決まるとある研究者から聞いたことがあります。だから失業をすると、それを恥だと感じ、他人に合わせる顔がなく、社会から孤立してしまうのではないか。生きていく上で肩書きが重要なのです。

 仕事に重きを置いている社会だから、そのような価値観に染まってしまうのは理解できます。個人的な感覚ですが、フィリピンでは、人の価値は仕事で決まるわけではありません」

 そう語るジャヌスは、世界各国で働くフィリピン人海外就労者(OFW)を例に挙げた。フィリピンから各国へ渡るOFWは人口約1億1000万人の1割に相当し、海外から本国への送金が国の経済を下支えしている。渡航先は日本や米国などの先進国だけでなく、治安が不安定な中東諸国なども多く、仕事は家政婦や介護士、建設業などが中心だ。

「彼らは本国にいる家族のために、誰もやりたがらない仕事を引き受けているのです。もし彼らが自分の価値を仕事や職業に見出しているのであれば、人生に対して不満を感じるでしょう。でも実際にはそうではない。彼らはたとえやりたくない仕事をやりながらでも、人生に意味を見つけているのです」

 日本とフィリピンの違いも織り交ぜながら、ジャヌスは時間をかけて台本を書き上げた。新型コロナの影響で予定が大幅にずれたが、主人公の俳優はリリー・フランキーが引き受けてくれることになり、日本とフィリピンを舞台に2023年、撮影が始まった。

後編に続く

【プロフィール】水谷竹秀(みずたに・たけひで)/1975年、三重県生まれ。上智大学外国語学部卒。新聞記者、カメラマンを経てフリーに。2004~2017年にフィリピンを中心にアジアで活動し、現在は日本を拠点にしている。2011年に『日本を捨てた男たち フィリピンに生きる「困窮邦人」』で開高健ノンフィクション賞を受賞。近著に『ルポ 国際ロマンス詐欺』(小学館新書)。

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