漫才へのあふれる情熱を語ったザ・ぼんち(左からぼんちおさむ、里見まさと/撮影=杉原照夫 )
M-1の潮流に逆行
ザ・ぼんちのネタの神髄は、脱線にこそあると話すのはNON STYLEの石田明である。
「お客さんは漫才って実は裏で何度も練習しているっていうことを、うっすらわかりながら聴いているもんなんです。つまり、あらかじめ決められたレールを走っているもんなんだ、と。なので話が脱線すると急にスリリングな気分になって、笑いが爆発する。ただ、それって誰にでもできるもんじゃない。普通の人がやると、嘘っぽくなっちゃうんですよ。過去を遡ってもボケらしいボケというか、バカを追求できた芸人って実はそんなにいないんです。最近も賢いボケばっかりになってしまったでしょ?」
昨年、M-1史上初となる連覇を果たした令和ロマンのボケである高比良くるまは、その代表格だという。確かにくるまはバカには見えない。頭の切れる賢いボケだ。
ザ・ぼんちが天下を獲った理由。そして、今も唯一無二の存在でいられる理由は、石田のこのひと言に集約されていた。
「お笑いって結局、バカを演じるのがいちばん難しいんですよ」
戦略担当でもあるまさとは、実はハンジロウ戦で致命傷になりかねないミスを犯した。THE SECONDのネタの制限時間は6分だ。多少の超過は許されるが6分30秒を過ぎると合計得点から10点マイナスになる。
会場の上部には大型のモニターが設置されていて、そこに残り時間が表示されている。にもかかわらず、ザ・ぼんちのネタ時間は6分35秒だった。結果発表の際、その事実を知らされるとまさとの表情が一変した。怒りに震える顔だ。
周りの後輩芸人たちがその場を取りなそうとまさとに必死に話を振っても、まさとはそのほとんどをスルーした。
「あのときの僕は『何を仕事してたん?』の塊ですよ。顔面蒼白って、あれを言うねんな。あれで負けてたら、楽屋に戻って相棒に土下座しようと思うとったんです」