結成54年目のザ・ぼんち(左からぼんちおさむ、里見まさと/撮影=杉原照夫)
結成16年以上のコンビのみによる漫才コンテスト『THE SECOND』(フジテレビ系)で決勝に進出したザ・ぼんち。かつて漫才ブームを牽引し一時代を築いた、ぼんちおさむと里見まさとの2人が、結成54年目にして、当時の熱狂を彷彿とさせる漫才で観客を沸かせている。ノンフィクションライターの中村計氏が、ザ・ぼんちの秘密に迫った。(文中敬称略)【前後編の後編】
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実はザ・ぼんちは昨年、同大会に初参加し、「ノックアウトステージ32→16」でやはりハンジロウとぶつかり僅差で敗れている。もう出場しないつもりだったそうだが、去年の夏から秋にかけて冒頭の「気をつけ!」というボケと、もう1つの似たような意味不明のボケをおさむがやり始めたことで、まさとの気持ちに再び火がついた。
「おさむさんが新しく思いついた2つのギャグを全国のみなさんにどうしても見てもらいたかった。それだけ。僕も最初は『急に何しとんの?』って思いましたけど、しばらくやらせると、これはおもしろいな、と」
おさむが新しいギャグを思いついたときのことを思い出す。
「意味なんてないんですよ。僕はうまい漫才を目指してないんで、咄嗟に思いついたことをそのまま口にしただけ。そうしたら、たまたまウケたんです。漫才中はいつも宇宙から何か降りてきへんかな思うてます。地球とうまく交わると降りてくるんですわ」
摩訶不思議なことを言って笑わせ、こう続けて、また笑わせた。
「ただ、情けないんですけど、歳いってるぶん、大きな声でしゃべらなと思うと、歯と歯のあいだから声が抜けそうになるんで、食いしばってセリフを言ってるんです」
線路の上を走るまさとと、脱線をひたすら繰り返すおさむ。ザ・ぼんちのネタを簡単に説明すると、そういうことになる。
ザ・ぼんち伝説のうちの1つにこんなものがある。その昔、おさむが勘違いし、予定とは違うネタを話し始めてしまったことがある。まさとはおさむの間違いを正そうと、やるはずだったネタを振る。しかしおさむは自分のミスに一向に気づかず、2人は最後までまったく別々のネタをしたという。ただ、その漫才も大爆笑で、客はまったく気づいていなかったそうだ。
2人の漫才はかみ合わなくていい。いや、かみ合わなければかみ合わないほど笑いが生まれる。
おさむのギャグは偶然だが、彼らが再び時代に迎え入れられたのは偶然ではない。まさとは自信たっぷりに言った。
「45年前、漫才ブームに乗れた人と外れた人がいた。僕らは『THE MANZAI』という絵の中にどうしたら残れるかわかっていたから乗れたんです。同じように『THE SECOND』という絵の中で残るにはどういう漫才をすればいいかわかっていますから。そりゃあ、当然ですよ」
あふれ出る自負に圧倒されそうになる。おさむもそのときだけは真面目な顔をして、こうとだけ付け加えた。
「漫才は難しいと思わせたらダメですね。楽しいと思わせないと」