高校のお馬鹿な落研時代の親友T君。彼を偲ぶラストの1編にホロッ
雨が多くて、外周が億劫になる6月。そんなときは、室内にこもって、外の雨音をBGMにして読書を楽しんでみるのもいいかもしれない。おすすめの新刊4冊を紹介する。
『ドグラ・まくら』春風亭一之輔/朝日新聞出版/1800円
担当者のむちゃぶりお題に応える69編。例えば閲覧数が増えるという理由の「メーガン妃」では、チャールズ国王戴冠式の招待状をもらってロンドンへ。税金の無駄遣いを避けた二次会会場には缶ビールや大五郎が並ぶ(ここはどこ?)。長寿の『徹子の部屋』に徳川家康が8回も出演していたとは知らなんだ。時事ネタは新作落語風、「卒論」などお馬鹿ネタは昭和の香り。読む落語です。
激動の昭和を駆け抜けた“同時代異夢”の男達の軌跡
『乱歩と千畝 ─RAMPOとSEMPO─』青柳碧人/新潮社/2420円
愛知五中から早稲田に進んだ25歳と19歳の貧乏青年二人が、カツ丼発祥の蕎麦店で偶然相席に。後に日本探偵小説界の巨星となる江戸川乱歩、ユダヤ人救世主として世界中から尊敬されることになる外交官杉原千畝だ。小説と語学。異なる夢を生きた二人の史実を友情というフィクションでくるむ。今年は昭和100年。己に忠実に生きた男達が愛おしくなるもう一つの昭和史だ。
お金で買えない幸せ=一人飲み。理想の境地は女版フーテンの寅さん
『一人飲みで生きていく』稲垣えみ子/幻冬舎文庫/792円
木造家屋の焼肉屋さんで、肉を焼きつつポケミスを読み耽っている青年を見たことがある。幸せオーラに包まれていた。女性の一人飲みに欠けているのはこの幸せオーラ。著者が“一人飲み道”に開眼するまでの修行記で、スマホ厳禁、酒と料理は全力で味わう、お勘定の時にお礼を言うなど12か条の一人飲みの極意を起案。「一人飲みを制する者は老後を制する」って名言だなあ。
葬祭ディレクターの仕事魂小説にして、アシスタント清水美空の成長記でも
『ほどなく、お別れです 思い出の箱』長月天音/小学館文庫/825円
スカイツリーが間近に見える葬儀場「坂東会館」。バイトから正社員になって2年目の清水美空は、情と理を尽くした葬儀を行う漆原礼二のようになるという目標を持つ(恋心も)。独居死した老人と形見の小犬、家族を捨てた父の参列を拒む長男の意地など、計4話の葬儀ドラマには社内のドラマも絡む。葬儀は区切り。区切りを経て生者と死者はまた新しく生き直すのだなと思う。
文/温水ゆかり
※女性セブン2025年6月19日号