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《放送50年》『Gメン’75』は「ハードボイルド」を宣言した唯一の刑事ドラマ 当時の世情の暗さを反映、なんでもありの荒唐無稽さも醍醐味に

「Gメン'75」の特異性とはなんだったのか(イメージ)

「Gメン’75」の特異性とはなんだったのか(イメージ)

 刑事ドラマ『Gメン’75』(TBS系)の初回放送から50年。1975年5月にスタートし、7年間で355話が放送され、最高視聴率32.2%を記録した。重厚な物語に加え、国内外での大規模ロケや本格アクションは、それまでの刑事ドラマと一線を画すものだった。深作欣二、佐藤純彌が監督・構成として名を連ね、劇場映画に匹敵する迫力を演出。メンバーが横一列に歩くオープニングは今なお語り継がれる。社会学者の太田省一氏が、「ハードボイルド」を宣言した「Gメン’75」の特異性について綴る。

 * * *
 毎回冒頭に流れる芥川隆行のナレーション「ハードボイルドGメン’75熱い心を強い意志で包んだ人間たち」を覚えている方も多いだろう。ハードボイルドな作風の刑事ドラマは他にもあったが、堂々とそう宣言したところが唯一無二。実際、『Gメン’75』は、設定も物語も映像も、どこを取っても「ハードボイルド」だった。

 物語は勧善懲悪のハッピーエンドにはしない。善良な市民がつい犯罪に手を染めてしまい、その後改心しようとした矢先、命を落としてしまう。そんなやりきれない結末が少なくなかったが、そこに何とも言えぬ現実のほろ苦い味があった。

 特別潜入捜査班というスパイもの的な設定も一役買っていた。話が国際的になることも多く、日本でありながら日本でないような無国籍の匂いがあった。取調室がよくある小さな部屋ではなく、ビルの地下の広々とした空間だったこと、刑事たちのファッションや立ち居振る舞い、陰影を強調した映像のスタイリッシュさなどもハードボイルド感を強調していた。

 当時の世情の暗さを反映していた面もあっただろう。放送開始の1975年は、高度経済成長が終わりを迎えた頃。右肩上がりの成長を信じられた時代は終わり、人びとは心に空虚さを抱えるようになっていた。国民的ヒーロー・長嶋茂雄の引退もそんな気分に拍車をかけた。爆弾犯などが劇中に登場したのも時代と無関係ではないはずだ。

 長嶋と爆弾犯が登場する「背番号3長島対Gメン」という回がある。Gメンに恨みを持つ犯人が、巨人戦の試合中の球場にダイナマイトを仕掛けて観客5万人を人質にしようとする。長嶋は出演しないが、犯人が長嶋の写真を使った謎をGメンに投げかけて混乱させる。深作欣二の監督回だが、荒唐無稽でなんでもあり。それも本作の醍醐味だった。

 社会派の重厚さもあったところに奥の深さを感じさせた。3回にわたり放送された「沖縄シリーズ」は、日米関係に翻弄される沖縄の悲劇を鋭く描いた高久進脚本の傑作。まだ戦争の記憶も生々しかった当時の空気感が伝わってくる。

 この「沖縄シリーズ」の主役は藤田美保子演じる響圭子で、女性刑事が最初からレギュラーとして登場するのは刑事ドラマ史上初。女性の社会進出が目立ち始めた1970年代の時代性を反映したものに違いない。

【プロフィール】
太田省一(おおた・しょういち)/1960年生まれ。テレビ、お笑い、アイドル、ドラマなどをテーマに執筆。著書に『刑事ドラマ名作講義』(星海社新書)など。

※週刊ポスト2025年6月27日・7月4日号

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