才能ある者達を貶めて喜ぶ連中。彼らの悪意を暴く男の情熱はどこから?
梅雨明け前に真夏並みの厳しい暑さとなる日があるなど、より念入りな熱中症対策が必要となりそうな今年の夏。ヘタに外出するよりは、冷房が効いた室内でゆっくり読書でもして過ごしましょう! おすすめの新刊4冊を紹介します。
『踊りつかれて』塩田武士/文藝春秋/2420円
SNS上に溢れた誹謗中傷により自死した芸人天童ジョージ。週刊誌の悪意報道で失速した1980年代の歌姫・奥田美月。二人を偲ぶ男が冒頭で宣戦布告する。匿名という鎧を着けた連中の名前や住所をネット上に晒していくと。男の素性、彼を巡る裁判、弁護を依頼された若き女性弁護士など、隅々まで具(笑いや恐怖や情や涙)がみっしり詰まった実力開花作。夢中で読み耽る。
顔の美しさという狭義にとらわれず、話し方や振る舞いなど広義の美しさを目指
『「見た目が9割」をどう生きる』中野信子 りんたろー。/小学館/1870円
人は顔で判断される。小学校教師が成績を付ける時も影響されている。この事実からは逃がれられない。脳の仕組みだから──という残酷な現実を巡って脳科学者の中野氏と美容男子のりんたろー。さんが語り合う。中野氏は整形も選択肢の一つとし、美容情報をSNSで発信するりんたろー。さんは美容を始めてすごくハッピーになったと。中野先生、諦念という道はダメですか?
生のクイズ番組で飛び出したゼロ打ち正解。解答者の国語力が冴える思考の流れが明晰
『君のクイズ』小川哲/朝日文庫/792円
クイズ大会決勝戦で、問題が読まれないうちにボタンを早押し、正解した東大医学部の本庄絆。対戦相手だった三島玲央はヤラセめいたその謎を解こうと本庄のクイズ歴を調べる。本庄は知識豊富で記憶力抜群、一方三島はクイズ研出身の社会人プレイヤー。三島が辿り着いた真実とは? クイズの世界がこれほど奥深いとは。「クイズとは人生である」との結語が晴れやかに響く。
イギリスで文芸賞三冠を達成。実在の事件に材を採り、世界に羽ばたく日本文学
『BUTTER』柚木麻子/新潮文庫/1045円
婚活連続殺人事件の被告・梶井真奈子、彼女を拘置所に訪ねる週刊誌記者の町田里佳、里佳の親友で妊活に励む主婦の狭山伶子。彼女達の恋愛観や人生観、影を落とすトラウマなどがバターの濃厚さと共に描かれる。“どんなものを食べているか言ってみたまえ、君がどんな人であるか当ててみよう”というブリア・サヴァランの名言を思い出す。女性達の葛藤や連帯がとても愛おしい。
文/温水ゆかり
※女性セブン2025年7月3・10日号