5月6日、ニューメキシコ州で麻薬取締局と地区連邦検事局が数百万錠のフェンタニル錠剤と400万ドルを押収したとボンディ司法長官(右)が発表した(EPA=時事)
太平洋をはさみ日本を飛び越える形で、中国とアメリカが現代の「アヘン戦争」に突入したのか。近ごろ問題化しているの合成麻薬「フェンタニル」をめぐる動きについて、日本人の多くはどこかよそ事だと思ってきたはずだ。ところが、日本も当事者となるかもしれない事態が明るみに出てきた。危険ドラッグなど薬物関連の取材を続けているライターの森鷹久氏が、フェンタニルをめぐり日本が直面している現実についてレポートする。
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薬物関連ですごいニュースが出た──
事件記者だけでなく、政治記者も一様に驚いたのは、日本経済新聞が6月25日に出した「米国へのフェンタニル輸出、日本経由か」というタイトルのスクープ記事だった。やはり日経の記事に驚いたという、全国紙警察担当記者が振り返る。
「アメリカでは薬物の過剰摂取によって2022年は約11万人、2023年は約10万人が亡くなっており、そのうちフェンタニルが原因の死者は7万人を超えていた。原料は中国からメキシコやカナダに輸出された後、アメリカに密輸されるルートだと言われてきた。しかし、原料がいったん日本の名古屋の拠点を経由している可能性を、日経が指摘したのです」(全国紙警察担当記者)
この数年、アメリカでは強力で即効性がある鎮痛剤として使われる合成オピオイドの一種「フェンタニル」が大きな社会問題となってきた。米疾病対策センター(CDC)が5月に発表した2024年の薬物過剰摂取による死者数は推定8万391人、そのうち合成オピオイド(主にフェンタニル)の死者数は推定4万8422人で、いずれも前年より2~3割減少してはいるものの、いまだ大きな脅威のままだ。
知らなかったですまされない
アメリカで乱用されているフェンタニルは、密売人によって隣国であるカナダやメキシコ経由でアメリカに流入していることが特に問題視されている。そのフェンタニルの流通をさかのぼると「中国」に行き着くと非難されてきた。
医薬品輸出大国でもある中国は、政府がフェンタニル原料を製造する国内企業に「補助金」をだして製造を奨励していた。医薬品として正しく使う相手に製品を販売していたのなら、もちろん問題はない。だが、2020年代初頭にはすでに、アメリカ国内で乱用されている薬物が「中国発のフェンタニル」という事実はある程度明らかになっており、それでも中国側は有効な対策をとらなかった、というのが事実だ。