1945年8月20日、満洲のハルビン市内を進むソ連兵(写真=SPUTNIK/時事通信フォト)
小泉:ウクライナでは開戦の数日後に限っていえば、ロシア兵が「お宅の車を壊してしまった」と謝りにきたという住民の証言もありました。戦闘の時期や状況によっては、精神が荒んでいない兵士もいたはずです。
麻田:私もウクライナの人々に取り囲まれたロシア兵が発砲を控えた映像を見て、淡い希望を持った瞬間もありましたが、長続きはしませんでした。
小泉:ブチャでの虐殺は開戦からわずか1か月後でした。住民に謝る心を持っていた兵士も、戦争が続くなかでどんな精神状態になったのかは分かりません。戦争が人間を変えてしまう部分があるということでしょうか。
麻田:そうかもしれません。日ソ戦争でも、停戦後に抑留された日本兵の証言には、「ソ連兵がよくしてくれた」という逸話が少なからずある。戦闘中はそれだけ精神が追い詰められるのでしょう。
(第3回に続く)
【プロフィール】
麻田雅文(あさだ・まさふみ)/1980年、東京都生まれ。成城大学法学部教授。専門は東アジア国際関係史。『日ソ戦争』にて読売・吉野作造賞受賞。他に『シベリア出兵』など著書多数。
小泉悠(こいずみ・ゆう)/1982年、千葉県生まれ。東京大学先端科学技術研究センター准教授、軍事評論家。専門はロシアの軍事、安全保障。『「帝国」ロシアの地政学』『ウクライナ戦争』『オホーツク核要塞』など著書多数。
※週刊ポスト2025年8月8日号