ウクライナ戦争で多数の民間人が虐殺されたブチャ(2022年4月/EPA=時事)
第二次世界大戦において日本は米中だけでなく、ソ連と戦争を繰り広げた。その全体像と戦後の国際秩序に与えた影響について、新史料をもとに描いた麻田雅文氏の『日ソ戦争』(中公新書)が話題だ。軍事評論家の小泉悠氏との対談で、現在の日露関係やウクライナ戦争に通ずる視点を語った。【全3回の第2回】
満州とブチャの占領の共通点
麻田:日ソ開戦で、満洲ではソ連兵による日本の民間人への残虐行為が相次ぎ、戦後も深い憎しみとともに記憶されていきます。
小泉:はい。ソ連兵は日本人の生活空間に踏み込み、略奪の限りを尽くし、女性には暴行するなど、人道にもとる行為が行なわれました。そうした「ソ連兵の占領」と、日本国内での「GHQの占領」は、性質が大きく異なることを理解する必要があります。
麻田:おっしゃる通りです。世界の戦史を見渡せば、ソ連型の占領がスタンダードです。
小泉:ウクライナ戦争で、日本国内には「ウクライナは早く降伏すべきだ」という意見も見られますが、そこで想定されているのはGHQの占領ではないでしょうか。ウクライナにおける現実の占領はもっとずっと過酷なものなんですが。
麻田:そうですね。占領の残虐性を考えるうえでは、ソ連兵だけでなく、大陸での日本軍の残虐性も引けを取らなかった点を併せて捉える必要があります。
小泉:でも、日清・日露戦争の頃には日本軍が捕虜を丁重に扱った逸話が残っていますね。ところが、太平洋戦争になると残虐性が際立ちます。なぜだと思いますか?
麻田:貴族が主導した18世紀的な戦争から、国民が一丸となる総力戦へと変わる過程で、敵への憎しみの物語が植え付けられ、暴力として現われたのではないでしょうか。
また、日ソ戦争では士気の低下を補おうとして、略奪が許されたというソ連兵の証言もあります。そのうえ、指導者もこれらの暴虐を積極的に止めていない。これもスターリンとプーチンに共通する構図ですね。
小泉:ウクライナ戦争やイスラエルのガザ空爆の現実に、人類の進歩への希望が打ち砕かれる思いです。20世紀で終焉したと思っていましたから。
麻田:同感です。人を人として見ていない、悪魔化というべきでしょう。