日ソ戦争の教訓に「沖縄戦と同じく住民を守る戦いができなかった」点を挙げる麻田雅文氏
第二次世界大戦において日本は米中だけでなく、ソ連と戦争を繰り広げた。その全体像と戦後の国際秩序に与えた影響について、新史料をもとに描いた麻田雅文氏の『日ソ戦争』(中公新書)が話題だ。軍事評論家の小泉悠氏との対談で、現在の日露関係やウクライナ戦争に通ずる視点を語った。【全3回の第3回】
北方領土返還と対露制裁の関係
麻田:私が小泉さんに伺いたかったのは、ロシアのウクライナへの執着を、2022年2月24日以前に気づいていましたか?
小泉:これほど戦争を続けるまでの執着とは思っていませんでした。現在、ロシア人は戦争の継続にそれほど強く反発していませんが、それはナショナリズム的な執着に加え、プーチンが反NATO的レトリックを組み合わせた結果だと思います。
麻田:なるほど。
小泉:厭戦気分が広がらないのは、ロシア連邦内の戦死者に、貧しい田舎の州や共和国の出身者、戦争参加を条件に釈放された受刑者が多いことも背景のひとつです。一方、社会的発言力の強い都市部の中産階級出身者には戦死者が少ない。
麻田:ソ連崩壊の一因となったアフガン侵攻(1979~89年)と違い、今回はそうした貧困層や受刑者の遺族に対して、手厚い補償や社会的な名誉回復の機会を与え、反感が膨らむのを抑え込んでいる節があります。
小泉:その財源は、エネルギー輸出で入る外貨が下支えになっていますよね。平時の何倍もの国防予算がカンフル剤となって、戦時経済を回せたことも大きい。
麻田:ところが、その余裕も徐々に失いつつあるのではないでしょうか。
小泉:はい。最近はインフレ対応もあって経済は減速が見込まれています。トランプがロシア産原油の輸入国に対する二次制裁にも言及している。今年の後半は、状況が変わってくると思います。