「免許返納」密着取材の際の釜本さん

「免許返納」密着取材の際の釜本さん

「マツケンサンバなら許されるんじゃないか」

 釜本さんにとって“理想の最期”だったのは父・正作さんも同様だったという。

「父は剣道が強く3段の腕前。警察官を務めたあと、軍人として陸軍中佐まで務めた。満州から帰国後、三菱重工京都製作所の青年学校の教官になった。背筋はスッが伸び、身長も175センチあって明治生まれでは群を抜いて長身だった。

 その父も誰にも迷惑をかけずに95歳で他界(2004年1月16日死去)した。母が亡くなって父がひとりになった時、同居を持ちかけたが、頑なに“同居はしない”と言い張った。それで知り合いが運営する健康な高齢者向けの老人ホームに入居。自由なところで“もっと早く来たらよかった”と喜んでいたが、1年経ったある日、朝食の時間に来た職員に“今は食べたくないので1時間後に起こしてくれ”と言い、1時間後には様子がおかしくなっていたという。それで病院に搬送。ボクも病院に向かったが、すでに亡くなっていた」

 両親ともに前日まで自分で食事をしていたという。

「認知症でもないし、自分で歩いていた。下の世話どころか、洗濯も自分でやっていた。自分もあんな最期を迎えたいなと思っている」

 そう話していた釜本さんは数年前に喉頭がんが見つかり、抗がん剤治療を続けていた。昨年春に誤嚥性肺炎で緊急入院し、その後は呼吸器をつけながらも自宅で療養するまでに回復していたが、今年6月になって再入院。家族と一緒に過ごしながら闘病を続けていたが、最期は苦しむことなく静かに息を引き取ったという。

 本誌の企画で釜本さんに「自身の葬儀で弔辞をお願いしたい人」を聞いたこともあった。その時は、「松平健さんをおいてほかにいないだろうね。もう40年来の付き合いになりますが、私が最も信頼する男です」と即答。そしてこう続けた。

「健さんも私も明るくやりたい方だから、弔辞も変わった趣向でやってもらいたいですね。さすがに徳川吉宗の衣裳で白馬に乗って登場というわけにはいかないが、マツケンサンバなら許されるんじゃないですかね。楽しみにしています」

 そう笑顔で語っていた。サッカー界のレジェンドとしての実績を持ちながら、いつも取材する側をも楽しませようとチャーミングな答えをしてくれる方だった。謹んでご冥福をお祈りします。

◆取材・文/鵜飼克郎(ジャーナリスト)

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