ジョージア部隊のマムカ司令官(撮影・横田徹)
今なお激しい戦闘が続くウクライナ。その最前線では何が起きているのか。これまで様々な紛争地を取材してきた報道カメラマン・横田徹氏は、7度にわたりウクライナを現地取材。その取材成果が新著『戦場で笑う 砲声響くウクライナで兵士は寿司をほおばり、老婆たちは談笑する』(朝日新聞出版刊)にまとめられている。
開戦から約3か月後の2022年5月、最初にウクライナ入りした横田氏。コロナ禍を挟んだために2017年のイラクでのモスル攻防戦取材以来となる戦地での取材となったが、そこで従軍取材したのが「ジョージア部隊」だった。2008年にジョージアはウクライナと同じくロシアの侵攻を受けたことから、ロシア軍と戦うために2014年にジョージア部隊がウクライナ東部ドンバス地方で結成され、2016年には正式にウクライナ軍の傘下に入った。
総員は約1万1000名、兵士の大半はジョージア人だが、米国、英国、フランスからの外国人義勇兵も加わり、日本人もいるという。そのジョージア部隊を取材した横田氏が、現場に愛犬のドーベルマンを連れて来るという変わり者のフィクサー(コーディネーター)のリシェットとともに見たものとは。新刊『戦場で笑う』より一部抜粋・再構成して紹介する。【前後編の後編】
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フィアット500とYOASOBI
格闘訓練教官と煙草を吸いながら談笑していると、リシェットが血相を変えてやってきた。
「パトリック(ドーベルマンの名前)がシェパードに咬まれたから動物病院に連れて行く!」
そう言い残して車に乗り込むと猛スピードで基地を出て行った。呆気に取られたが、その場に取り残されて、一人で取材を続けるしかなかった。
久しぶりの本格的な取材だったが、動画撮影のカメラワークも以前の感覚が戻ってくる。最前線に向けてのウォーミングアップは完了した。これまで多くの日本人ジャーナリストが開戦時からウクライナを取材しているが、まだ最前線で従軍している者はいない。それは日本人だけではなく欧米のフリーランスも同じだった。今回の取材を成功させるには、東部の最前線に行かないことには仕事にならない。実現させるしかないと、マムカ司令官に直談判した。
「ジョージア部隊の前線部隊は世界のどのメディアにも取材させたことがなく、従軍はできない」
しかし、諦めるわけにはいかない。「そこを何とか!」と懇願するも「許可できない」の一点張りだった。こういう時こそ援護射撃をするのがフィクサーの仕事だが、リシェットは愛犬の緊急搬送中でいない。こうなったら単独で東部に行って戦闘中の部隊に直談判するしかない。紛争国にはパスポートとお金と覚悟さえあれば誰でも行ける。しかし戦場に行くのは簡単なことではない。
訓練の取材が終わり、夕方になってようやくリシェットが戻って来た。ドーベルマンの臀部の毛は剃られて縫い傷が痛々しい。
「戦場に行く前から負傷したね。これなら勇ましく見えるし、戦場でもナメられない。ハハハ……」
こんなフィクサーに1日1500ドルという大金を払う価値があるのか? 初日からこれでは先が思いやられる。