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《“美談”か“酷使”か》甲子園「先発完投エース」70年史 板東英二、柴田勲、荒木大輔、松坂大輔、斎藤佑樹、吉田輝星…記憶に残るスターはもう誕生しないのか

「先発完投型のエース」70年史(左から横浜高校・松坂大輔、徳島商業・板東英二)

「先発完投型のエース」70年史(左から横浜高校・松坂大輔、徳島商業・板東英二)

 灼熱のマウンドにただひとりで立ち続け、精根尽き果てるまで白球を投じる──いわゆる「先発完投型のエース」は影を潜めてきている。投球障害予防の観点から、継投策が主流となっているからだ。しかし、高校野球の歴史に輝く背番号「1」のエースは、ひとりで投げ抜いた鉄腕が少なくない。

 1958年夏の準々決勝で魚津(富山)と対戦した徳島商業の板東英二は、延長18回を投げ抜いたあと、翌日の再試合にも登板して勝利を収めた。決勝で敗れはしたものの、大会を通じてマークした83奪三振の記録は現在も破られていない。

 1年夏から4度にわたって甲子園のマウンドを踏んだ法政二の柴田勲や、1980年代に甲子園に出場した早稲田実業の荒木大輔は爆発的な人気を博した。荒木にあやかって名付けられた横浜の松坂大輔や、早実の後輩となる斎藤佑樹も、大会をほぼひとりで投げ抜いて深紅の優勝旗を手にした。2018年には吉田輝星が秋田大会初戦から甲子園決勝までマウンドを守り続けた。通算1517球もの球数を投じて起こした、金農旋風は記憶に新しい。

 一方、ひと夏の酷使でその後の野球人生を狂わせた者もいる。1991年出場の沖縄水産の大野倫は、決勝までの6試合で773球を投じ、36失点しながらもマウンドに立ち続けた。しかし代償として、大会後に右ヒジの疲労骨折と診断された。決勝の大阪桐蔭戦が投手として最後の登板機会となった。

 先発完投型のスターは吉田以来現われていない。その要因はふたつある。

 まずは2019年夏に起きた“事件”の影響だ。「令和の怪物」こと佐々木朗希を擁する岩手県立大船渡の國保陽平監督(現・盛岡白百合学園教諭)は、大黒柱の疲労とケガのリスクを考慮して、甲子園の切符が懸かった決勝で佐々木の起用を回避した。同校にとって35年ぶりの甲子園出場よりも、一個人の将来を選択した指揮官の選択は物議を醸した。これを機に特定の投手を酷使するような指揮官は批判にさらされるようになる。

 要因のもうひとつは2021年春のセンバツから導入された「1週間に500球以内」という球数制限だ。指揮官はスケジュールや投手の球数を頭に入れながら戦うことが求められるようになった。

 今夏の選手権大会に出場する49校のなかで、地方大会をひとりの投手で勝ち抜いた学校はない。記憶に残るエースは今後、生まれないのだろうか。

取材・文/柳川悠二

※週刊ポスト2025年8月29日・9月5日号

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