2025年6月の都議選で、共産党は高校生の通学定期券の無償化を訴えた(2025年6月写真撮影:小川裕夫)
「神戸市が高校生通学定期券補助制度を開始した背景には、兵庫県が2015年度に公立高校の学区を再編したことがあります。この学区再編により、進学の選択肢が増えました。それ自体は喜ばしいことですが、他方で通学範囲が広がりました。そのため、鉄道・バスといった定期代の高額化を招き、家計の負担が重くなっています。そうした通学費を軽減するべく、通学定期代の補助を始めることになったのです」と話すのは神戸市こども家庭局こども青少年課の担当者だ。
神戸市は2025年度における同制度の対象者を2万5000人と想定し、約22億円の予算を計上した。
近年は中高一貫校が増えて電車・バス通学する中学生も増加傾向にあるが、現在のところ同制度は高校生のみが対象となっている。
ほかにも群馬県高崎市・埼玉県秩父市・新潟県上越市・愛知県豊田市など多数の自治体で高校生の通学費を補助する制度が始まっている。だが、これらは通学費の一部を補助するもので、神戸市のように全額を負担する無償化は初の試みだ。とはいえ、一部の補助でも家計負担を軽減する効果は大きい。
こうした自治体による通学費の支援は少しずつ広がりを見せているが、シルバーパスに比べると歴史が浅いこともあり、社会的に認知されていない。なにより、まだ支援策を拡充できる余地があるように見える。
2025年6月に投開票された東京都議会義委員選挙で共産党が通学定期の無償化を公約に掲げ、共産党以外でも一部の候補者が通学定期に対する支援を打ち出していた。
東京都で通学定期に対する補助は始まっていないが、選挙で神戸市に追随する政策が掲げられたことからも、今後は全国の自治体で通学費の支援が課題になっていくだろう。
移動支援が狙うもの
鉄道やバスといった公共交通は、当たり前のように生活の中に組み込まれている。しかし、自治体の財政が逼迫したことで自治体が運行そのものを止めてしまうこともある。運行そのものを廃止することは稀なケースだが、減便・路線の縮小は珍しくなくなった。昨今は、自治体財政のほか運転士不足という理由から公共交通が縮減することもある。
地域の交通機関の運営が厳しくなったとき、沿線自治体からの直接的な資金注入などが支援としてすぐに思い浮かぶかもしれない。だが、交通機関の存続にもっとも必要なのは利用者の確保で、その利用者の需要を生み出すための起爆剤としてシルバーパスや定期券の無償化は有効的な施策だろう。