広陵高校硬式野球部のグラウンド
退任したコーチが「練習の見守り」を行う理由
しかし、夏の甲子園まで3学年をあわせた部員数は163人(そのうち女子マネージャーが11人)だ。それだけの数の部員に対し、指導者は松本氏と、野球経験のない瀧口氏だけでは安全面の管理や予期せぬケガが発生した場合の対応に十分な人数とはいえまい。3人のコーチの退任理由と、安全面で心許ない現状への対応策を学校に尋ねたところ、以下の回答だった。
「松本監督以外の者について、当分の間、指導から外れることとしております。なお、中井哲之、惇一以外の者は、安全管理及び健康観察のため練習の見守りを行っております。3年生が公式戦から引退しており、2年生が活動している状況です」
中井親子だけでなく3人のコーチが退任していることを認める一方、「練習の見守り」役として練習に帯同しているという。結局、いずれコーチに復帰することを見据えながら、批難が集まる現時点では一時的にコーチの立場を外れているということだと感じられる。そう考えると、中井前監督や惇一氏の復帰も想定されているのではないかと勘ぐってしまうのだ。
30日、31日の試合では謹慎処分を受けていない2人の元コーチが選手たちに試合の運営が滞らないよう指示する姿もあった。30日には謹慎処分を受けた元コーチも姿をみせていた。日本学生野球協会から3か月の謹慎処分が下ったコーチは、いくら技術指導などはしていないとはいえ、試合会場に姿を見せることは許されるのだろうか。
広陵高校は今年1月に寮で起こった集団暴行事件に関して、改めて第三者委員会を発足し、再調査することを決定した。結論が出る時期について尋ねると、「本校の調査では今年1月に複数人がそれぞれ暴行をした事実を認定しておりますが、調査方法、調査機関については組織された委員におまかせしており、これから開始する委員会についても同様です。結論の時期については承知しておりませんし、本校から希望を申し上げることも不適当と考えております」との回答だった。
A君が被害に遭った事件で第三者委員会の焦点となるのは、中井哲之前監督からの暴言やパワハラがあったかどうか、だろう。中井前監督の口から謝罪や経緯の説明がないまま第三者委員会の結論が野球部の当初の主張と食い違うようなことがあれば、中井前監督が高校野球の現場に復帰する未来はまず描けないだろう。
■取材・文/柳川悠二(ノンフィクションライター)