硬式野球部での暴力問題が尾を引いている広陵高校
なぜ34歳コーチが監督に指名されたのか
そもそも、なぜ中井前監督の後任として、34歳の松本氏が指名されたのだろうか。松本氏は惇一氏に次いで若手のコーチだ。経験豊富な先輩コーチやOBは多く、人選には困らないだろう。また、新部長にバスケットボール部の顧問で野球経験のない瀧口貴夫氏(64)が就任したことも大きな疑問だった。長期的な視野に立った人材登用ではなく、簡単に首をすげ替えることにできるその場しのぎの人事にも見えた。松本氏は言った。
「それは学校の判断ですので……僕は与えられた役割をただ全うするだけですので、それ以上は答えられません」
そして、本題である。私はその日、試合前のノックを注視していた。内野ノックは通常、監督が行い、外野ノックはサブノッカーが務める。サブノックは基本的にコーチが務めるものであり、まさか野球経験のない瀧口氏がサブノッカーを務めるとも思えない。ベンチ入りしている部長がノックを行わない場合、ベンチ入りしていないコーチがノックの時にだけグラウンドに降りてきてノックバットを手にするのが通例だ。3人のコーチのうちいったい誰がノックを打つのか……と見守っていると、この日の試合では選手がサブノッカーを務めていた。さらに翌31日の沼田戦でも同様だった。県大会出場を決めた31日の沼田戦(4対1で勝利)後に、その理由を松本氏に問うてみた。
「ベンチの中でノックが打てるのが選手しかいませんので、選手がノックを打っています」
30日の試合前には、ほんの一瞬だけ謹慎処分を受けたコーチの姿があり、1人のコーチは試合を見守り、もう1人のコーチは試合後の選手たちに労いの言葉をかけていた。私はその1人に対し、現在の立場について訊ねた。
「正確な人事は学校に聞いてもらいたいのですが……前体制の指導者で、現在の野球部に残っているのは松本だけですね」
両日の試合では、赤いベースボールキャップを被った3年生が試合を見守り(同校では学年によってかぶるキャップの色が異なる)、グラウンド整備なども手伝っていた。彼ら3年生が中心だった前チームは、甲子園1回戦の旭川志峯(北北海道)に勝利したあと、混乱を招いたとしてその後の試合出場辞退を8月10日に決定した。その日のうちに大阪から広島に戻った選手たちは、それぞれの地元に帰ることなく寮生活を続け、3年生は現在も練習にも参加しているという。