『あんぱん』“豪ちゃん”役の細田佳央太(写真提供/NHK)
いよいよ最終回が目前に迫ったNHK朝ドラ『あんぱん』。放送開始以来、作品の人気を支えてきたのが主人公2人を取り巻く個性豊かなキャラクターたちだ。主人公・朝田のぶ(今井美桜)の祖父・釜次(吉田鋼太郎)の弟子である「豪ちゃん」こと原豪役を務めた細田佳央太が、撮影での秘話を明かした。
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豪は自分から言葉を発することはありませんが、朝田家のみなさんに常に寄り添う心を持っている人物です。
最初はその人物像にプレッシャーを感じていました。セリフが少ない分、感情の変化を相手の言葉への反応で表現し、見せていかなければならない。
1話15分という朝ドラの尺のなかでどこまで切り取ってもらえるか。そのうえで、退場する時には視聴者の印象に強く残らなければなりません。
そういった難しさを含めて、豪に懸ける思いは強くありました。
出征前にヤムさん(阿部サダヲ)と釣りをするシーンがクランクインだったため、そこで豪の全体的な方向性が決まった気がします。阿部さんとの芝居は安心でき、緊張せずに臨めましたし、とても印象深いシーンです。
河合優実さんと共演するのは3回目だったこともあり、河合さんが演じる蘭子さんに絶対的な信頼を置いていました。お芝居について細かな点を詰めなくても、豪の蘭子さんへの思いは時間経過で自然と深くなっていった感覚があります。
岩男さん(濱尾ノリタカ)が蘭子さんに結婚を申し込みに来たシーンは、豪の心臓はバクバクだったのでは(笑)。その後出勤する蘭子さんが作業場の横を通る時、監督から「石を叩く音で感情を表現してほしい」と言われ、豪の動揺を音で表現した場面が印象的です。
そんな2人の思いが通じ合うシーンは、台本を読んだ時から感動的でした。羽多子さん(江口のりこ)から「豪ちゃん、蘭子をよろしゅうお願いします」という言葉を受けた時、初めて朝田家の一員になれた気がして、込み上げるものがありました。戦争をはじめ多くの苦難が描かれる物語のなかで、このシーンが輝いて見えていればいいなと思います。
戦後、蘭子さんが八木さん(妻夫木聡)と距離が縮まるという展開は事前に聞いていました。戦争を乗り越えて生き抜いた人々が幸せになるのは当然の権利だと思います。
豪のことを忘れないでいてくれることはとても嬉しいですが、それでも蘭子さんには前を向いて自分の幸せを第一にしてほしい。豪もきっとそう思ったはずです。
初めての朝ドラが『あんぱん』であったこと、とても嬉しく思います。これほど多くの方から愛され、求められたキャラクターと出会えることも当たり前ではありません。
【プロフィール】
細田佳央太 (ほそだ・かなた)/2001年生まれ、東京都出身。主な出演作品に映画『町田くんの世界』『花束みたいな恋をした』、大河ドラマ『どうする家康』など。2025年冬NHK東野圭吾スペシャルドラマ『雪煙チェイス』にて主演を務める。
※週刊ポスト2025年10月3日号