ラーメン店の厨房は暑い(イメージ)
人が一日にかく汗の量は通常ならば約1リットル、高温下で労働すると10リットルに達することもあるという。働く人の汗、さらに猛暑の中での汗というのは仕方がないこと、汗をかくほど熱心に取り組んでくれていると感謝したり、お互いさまということで許容されたりすることが多かったように思うが、2025年夏の記録ずくめの暑さのなかで「汗クレーム」が増えたという。ライターの宮添優氏が、汗にまつわるクレームに悩まされている仕事の現場についてレポートする。
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夏に終わりが見えてきたといっても、まだ猛暑日が続き残暑が厳しい2025年は、暑さの影響による、ある「悩み」を抱える人たちの苦労が続いている。
「クーラーが効かないような近年の夏の暑さで、調理中、どうしても汗をかいてしまう。以前、そうしたクレームをおっしゃるお客さんはほぼいませんでしたがね。あまりに暑く、みんなが汗だくなので、やはり気になるんでしょうか」
東京・港区内の老舗ラーメン店店主はこの数年、特に夏の時期になると従業員の「汗」を極端に気にする客が増えたことに気がついた。そもそも、ラーメン店といえば湯気が立つ厨房の様子が見えるようなつくりをしている店が多い。店舗の広さという問題もあるだろうが、注文したラーメンが作られていく過程が見られる臨場感も肯定的に受け止められてきた。だから、釜いっぱいの熱湯で麺を茹で上げ、カンカンに炊き上がったスープを扱う調理人が額に汗を浮かべても、それがクレームに繋がるとは考えられなかった。
額から汗が噴き出るのは一年中のことで、40℃近い暑さが続くような真夏には汗が止まらない。汗拭き用のタオルを常備するだけでなく、いろいろと対策をするのだが、厨房内の灼熱をやわらげるのは難しく、汗だくで調理せざるをえない。真夏のラーメン調理ではやむを得ないことなのだが、今年の夏は、調理人の汗について、急に複数の苦情が寄せられたのだという。
「汗だくで料理すんな、汗が入ってるんじゃないか、なんて言われるようになりました。クレームを入れるお客さんも汗だくで、まあみんなイライラして、他人の汗を許容できなくなっているんじゃないかと思います。扉をガラッと開けて入ってきて、汗だくで働く我々を見て無言で立ち去るお客さんも増えた。どうにかしなきゃとは思ってるんですが、生理現象だし、うちはラーメン屋だし。SNSにも書かれちゃうけど、もうどうしようもない」
あるSNSにではついに、ラーメン店について「汗だくの従業員で清潔感がない」「配慮がない」という内容の投稿が書き込まれた。だが、決して店主らが「配慮」をしていないわけではない。電気代が高騰する中、エアコンや扇風機をフル稼働させ、外にできる行列に並ぶ客のため、無料の給水機まで設置した。だが、ここまで客へ快適さを提供しても、従業員が「汗だく」というだけで、クレームを受けてしまう。
クレームをつけるお客さんも汗だく
「一昨年くらいからでしょうか。なんか臭くない、(自分の前に)変な人が乗ってたでしょ、ってお客さんからのクレームが増えました。最初に言われた時はドキリとしましたが、同僚に聞いたら、同じようなことを言われるというんです。みんな暑くてイライラされている」