送検される濱田淑恵被告
2020年8月、寺崎被告から実家に「Aさんが亡くなった」と電話があった。電話を受けた母によると、お悔やみの言葉もなく、明るい声だったという。しかしそのころには、長男は連絡が取れない父のことを忘れようとしていたという。
親族は遺骨を受け取りに事件現場の和歌山に出向いた。しかし、遺書にあったように散骨されたと聞かされ、わずかな遺灰と死亡時に身に着けていたハンカチだけが手渡されたという。
昨年、警察から「単なる自殺ではない」と再捜査の連絡を受け、今年になって「(Aさんは)洗脳されて自殺を差し向けられた可能性がある」と聞かされた。偽の遺書で散骨され親族の墓に入れることができず、現金も財産も濱田被告らに奪われた。長男は自殺でなく、殺人だと捉えているという。
事件以降、3人の被告からは一言も謝罪も弁償もない。長く刑務所へ入っていてほしいという思いで、父の形見となったハンカチとともに公判を見守る、と読み上げられた。
Aさんはオーディオ業界でメディアに名が挙がるほど有名な人物だった。長男としては、Aさんが大事にしていたCDも売り払われていたこともショックだったという。仕事熱心であったAさんが濱田被告に傾倒した理由は今では知る由もないが、同じく信者だった被告人両名は、濱田被告との“異様な信仰生活”について、赤裸々に明かしたのだった——。
(第2回につづく)
◆取材・文/普通(裁判ライター)