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【書評】『過疎ビジネス』 地方再生事業の「先生」として過疎自治体に入り込み、やがて「社長」に変貌する手口の不気味さ

『過疎ビジネス』/横山勲・著

【書評】『過疎ビジネス』/横山勲・著/集英社新書/1100円
【評者】津村記久子(小説家)

 本書が取り上げる寄付金還流の仕組みを説明する。企業版ふるさと納税をやった企業は、寄付額のうち最大で九割が法人税その他の税の合計額から差し引かれる。A社が自治体「あ」に寄付をする。「あ」は寄付金関連の事業をB社に委託しているのだが、B社はA社と実は裏で協力関係にあって、B社は事業に必要な物をA社のグループ会社C社に発注するよう「あ」を誘導する。C社は利益を上げ、A社には寄付額の大部分が戻ってくる。B社は「あ」の仕事の受注者として取り分を得る。

 巧妙だ。しかしまずは自治体「あ」がしっかりしていればこんなことは起こらない。宮城県仙台市が本社の河北新報の連載記事を元に書き下ろされた本書は、B社が自治体「あ」に入り込んで〈過疎ビジネス〉を展開した経緯を綿密に追う。

 冒頭の、ここでいうB社の社長の「無視されるちっちゃい自治体がいいんですよ。誰も気にしない自治体」という言葉がものすごい。この発言の録音を始めとしたさまざまな情報が河北新報に舞い込んできたことの源には四日連続の朝刊での追及報道があり、そのことについて「情報は情報に集まるものだと、駆け出しの頃に先輩記者から教わった。とにかく読者を信じて書くことが大事なのだ」と断言する姿勢の強さに驚く。

 地方創生事業の「先生」として過疎自治体に入り込み、やがて「社長」に変貌する手口の不気味さと、それを許してしまう職員たちの忙しさ、そして日本全体の問題である地方の過疎化を交付金のばらまきだけで解決しようとする政府の問題が詳らかにされる。

 暗澹たる気持ちになるが、「寂れ方」を自分たちで考えようとするむかわ町穂別の人たちの事例や、自治体の町議たちが奮起する様子など、希望もある。兵庫県問題への言及もある。悩む県民たちに是非読んでほしい。

※週刊ポスト2025年10月10日号

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