タイトル「そしてあなたたちはいなくなった」を変えた訳
第一部の終わりに「補章」として「アガサ・クリスティーと中島梓」という、短歌とは一見かかわりのなさそうな章が設けられている。
「私が評論を書くうえでいちばん影響を受けたのが中島梓で、何の話をしても中島梓の『小説道場』の話になってしまうというところもあるんですけど、女性同士の文学のコミュニケーションの場として『小説道場』はすごくうまい成立の仕方をしていたので、この章を入れました」
巻末には、瀬戸さんが10首ずつ選んだ、本文に登場する歌人のアンソロジーを収めた。
印象的でうつくしいタイトルは、葛原妙子の歌から。
早春のレモンに深くナイフ立つるをとめよ素晴らしき人生を得よ
「ウェブで連載していたときは、『そしてあなたたちはいなくなった』というクリスティーの『そして誰もいなくなった』をもじったタイトルでした。5年前ならそのまま受け入れられたと思いますが、今はマイナスイメージでとらえられるかもしれないと思い、変えました。『を』から始まる本のタイトルはなかなかないので、目立つところもいいんじゃないかと思います」
【プロフィール】
瀬戸夏子(せと・なつこ)/1985年石川県生まれ。歌人、批評家。著書に、歌集『そのなかに心臓をつくって住みなさい』『かわいい海とかわいくない海 end.』、評論集『現実のクリストファー・ロビン 瀬戸夏子ノート2009-2017』『クリスマス・イヴの聖徳太子』、歌集ガイド『はつなつみずうみ分光器 after 2000 現代短歌クロニクル』など。
取材・構成/佐久間文子
※女性セブン2025年11月6日号